【Ｂ２：教室前廊下】

　背後での作業が進められていく中、数名の生存者はそれらを守る為に前線に立つ事になっていた。
「巴ちゃん、出すぎだ！」
　モップを手に、足止めから漏れ出て来る感染者を突く事で窓の外に放りだしながら、信彦はその姿を見る。
　――突入時、バリケードに巻き込まれ、資材の下になった感染者の数はそう多くは無い。
　潰されただけで生きている者、そして前方から迫る感染者に対し、巴はただひたすらその中を突っ切り、おびき寄せていたのだ。
「いいから、あんた等は後ろの奴等だけを気にしときな！」
「だからって――」
　一人の感染者を倒し、そこに信彦の油断が生まれる。
　巴を気にしすぎた為に、次に向かってくる感染者への対応が一歩遅れていた。
「気を抜くな、八十八旗！」
　――近づいてきていた感染者に対し、【資料室で解体し、手に入れた鉄パイプ】で、刀は頭を強く殴打する。
　短く悲鳴を上げ、そのまま感染者は地面に倒れていた。
「桜崎は覚悟を決めてる。なら、俺たちが出来るのは一つだ」
　工具箱を渡した際に、刀は巴の覚悟を聞いている。
　薬の使用ミス、その責任だけは取ると、強く語ったその意志と共に。
「だったら諦めろって言うのか？ ふざけんな！ そんなの納得なんて出来るわけないだろ！」
　そんな自分勝手な理由で居なくなる事を、信彦が許せるはずが無い。
　生き残る可能性があるのなら、少しでもそちらに賭けるのが賢明だと。
　――そして、女性に守られたまま、勝手に逃げられるなんて我慢できないと叫びながら。
「ふ……はははは！ 相変わらず、こんな状況でも変わりゃしないね、あんたは」
　階段側から這い出てくる感染者を踊り場に叩き落しつつ、既に折れた木製の箒を手に、巴は感染者越しに二人に視線を向ける。
　――背後では、既にバリケードの形が出来上がっており、修達も資材を運び終え、そちらの作業に加わってる様子が見えていた。
「そうさ、諦めるつもりなんてまっっったくないからな！」
「……あぁ、そうだね。あんたのそういうとこは嫌いじゃない」
　服は既に所々が赤く染まり、それが感染者だけの血ではない事を、当の本人である巴は理解している。
　救助までの時間がまだ少なくとも半日以上が残されている事を考えれば、ねむるが持つ最後の一つを自分の為に使うつもりは――巴には無かった。
「……桜崎」

「悪いね、刀。残った化け物とその馬鹿の事、頼んだよ」

　こちらに向かってくる感染者に対し、折れた為に先が尖った箒を突き刺し、感染者の行動を止める。
　そして、音と共に２階から分かれて群れとなって進む感染者が踊り場まで迫っているのを、巴は確認していた。
「こんなのが道連れなんてねぇ……まったく、あたしらしいじゃないかい！」
　出来る事は唯一つ、最早感染を恐れる理由も無い。
　向けられた視線のまま、巴はここに来るまでに見かけた【トイレ付近に設置された消火栓】を目指し、感染者に向かい駆け出していく。

「巴ちゃん！」
　叫びながら、信彦はその光景を見送ってしまう。
　巴に釣られていたとはいえ、感染者はまだ数人、互いの間を挟む形で存在していたのだ。
　それらを排除しながら巴を止める事は、どれだけ足掻いたとしても時間が足りなかった。
「……下がるぞ、八十八旗。皆が呼んでる」
　バリケードが完成間近となり、早くこちら側に来るようにと言った声が二人にかけられる。
　――階段から、感染者の増援はまだ現れない。
　それが巴の奮戦の結果である事は、嫌でも理解しなければならなかった。

【Ａ５：右側３－屋上右階段】

　資材が徐々に集まり始め、それらを運ぶ形で優とタルトは足早に屋上に通じる踊り場を往復していた。
「あっちはどうにかなったみてぇだな」
　叫び声や怒号は聞こえていたが、ここから見える限りでもバリケードはしっかりと機能している。
　何が起こったのか、情報自体は伝わっていない為に判断をつける事は出来ないが、それでも多少の安心だけはもたらされていた。
「でも、こっちも限界っぽいからね。急いで作らないと時間ないかも」
　３階に続く階段のバリケードは、大きく揺れながらその強度をすり減らしていく。
　もう少しだけであれば持つだろうが、それでも油断はできない状況にあったのだ。
「分かってる。いい加減、作り慣れてきたしな」
　都合三度目、既に月が居なくとも、優は工夫したバリケードの作成方法を理解している。
　タルトもまた、同じように作り上げてきていたのだから、その手順も同様に。
「ふふ、そうだね。そんな君に……じゃーん！」
　資材を床に置き、タルトはずっと背負いっぱなしだったバックを広げる。
　――中に入っているのは、幾つかのお菓子。
　一番初めに探した教室で、生徒が置き忘れていた物であった。
「……期限、大丈夫か？」

「もちろん、しっかり確認済みさ！」

　ふふんと鼻を鳴らし、タルトは優に対して自信満々に口にしていた。

「これで、準備は完了はよぃ」
　屋上近くの踊り場に集める資材の最後を置き、瓢はポツリとその言葉を口にする。
　既に一人脱落者が出ている事は、先ほど伝わった話で聞いていた。
　――だが、瓢はそれに対して表情を変える事はなかったのだ。
「後は仕上げを御覧じろ、ってね。さてさて、どれだけ言われるかねぇ」
　武道はおそらく、自分の考えに反対するだろう。
　タルトと月はどうか、それに優も。
　不安要素は多々あれど、それが自分達が生き残る為に必要な手であると、瓢は考えている。
　――たとえその手が、他のグループを巻き込んだとしても。

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【構築成功】
Ｂ３第一バリケード：強度1.0（3-3）

【資材移動】
３－３・３→４→屋上踊り場

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Round5 End

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▼各グループ状況▼
Ａ：5/5 感染：桜崎 巴
Ｂ：5/5 感染無し
Ｃ：5/5 感染無し

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