【Ｂ５：３－屋上階段付近１】

　バリケードが完成間近を迎える頃、大きく鳴った階下の音は全員に崩壊の事実を伝えていた。
「来ます。警戒を怠らずに」
　ナタリアの言葉に従い、完成するまでの間の足止めを行う為、透と刀、そして屋上から月と優、そして武道が階段の道を塞ぐ形で、上下に分かれて陣取る。
「とにかく、目の前に出たものをこれで落とす。それだけです」
　透は手に持ったモップを再度握りなおし、正面に向けて構える。
　バリケードさえ完成すれば、後はここを守るだけ。
　残りの時間にようやく希望が見えて来た事もあり、透を含め全員がそれらに対しての希望を抱き始めていた。
「あちらも始めたようですね」
「あぁ、間に合うといいんだけどな」
　異質な匂い――何かが焦げるものと共に、多少の煙がこちらに流れてきていることをナタリアと刀が確認する。
　――それは、由貴奈達が行動を起こした結果によるものであった。

【Ｂ４：教室前廊下】

　背後で燃え始めたバリケードを背に、修達は屋上へと向かい移動を開始していた。
「正面、上がってきてるぞ！」
　修の叫びと共に、全員が正面の階段から昇ってくる感染者の姿を確認する。
　――それは大勢と形容したほうが早いほどの人数を持って。
「他の人達も頑張ってくれてるみたいだね。僕達も急がないと……！」
　ねむるが語るように、大勢とは言え、階段に向かう感染者とこちらに向かう感染者、その二つに行動は分かれる。
　確認出来る数は大よそ１０より少し多い程度。
　この人数なら、突破できる可能性は十分にあった。
「なら、このまま突っ切るのが早いってね！ 大丈夫、絶対なんとかなるさ！」
　それは絶対の意志。
　今度こそ誰も見捨てるつもりは無い信彦が、道を切り開く為に先頭に立ち走る。
　――だが、その中で由貴奈が３－８の中から聞こえた音に気付く。
「ここって……皆、ちょっと待って！」
　身体能力が低い為に、ねむるがサポートする形で中ほどを走っていた由貴奈が、全員に声をかける。
「今は止まっている時じゃないんです！ 急がないと――」
「違う、ここ……覚えてないかなぁ？」
　修が静止に異論を唱えるより早く、由貴奈はクラスの室名札を指差す。
　――３－８、そう書かれているものを。
「ここって……そうだ、僕が別の道を作る為にカーテンを垂らした場所だよ！」
「それって、まさか……！」
　先頭に居た信彦が、三人の下に戻りねむるの言葉に反応する。
「あぁ、可能性は高い。居るのなら助けるぞ、絶対に！」
　全員が頷き、３－８の引き戸を勢いよく開いていく。

【Ｂ５：３－屋上階段付近２】

　修達が３－８に入っていった頃、こちらではバリケード防衛と彼らを待つ為の激戦が繰り広げられていた。
「これで、どうよぃ！」
　バリケードの側から前で守る者達の援護の為に、陽太は残っていた刃物を全て投げ、更に事前に作っていた二つの粘土細工に鋏を持たせ投げる。
　その粘土細工はまるで意志があるように、感染者に取り付きそのまま目を潰していく。

「にゃにゃにゃ……がおー！」
　手を丸めながらこの言葉を叫び、真央も自らの力であるがおーを召喚し、突撃を行うように指示を出す。
「行くのだ、がおー！ 真央ちゃんがしっかり雄姿を見届けてあげるのだ！」
　ふんむとばかりに、がおーはだるそうな顔を珍しくやる気のある顔に変え、感染者に突撃していく。
　引っかき、噛み付き、縦横無人にがおーはその足並みを崩していた。

　――だが、それでもまだ足りない。
「……バリケードは完成しています。これ以上は時間の無駄でしょう」
　自分に向かう感染者を階段の上から突き返し、ナタリアは全員にこの言葉を告げる。
　崩壊より既にある程度の時間が経過している。
　その上で、これ以上バリケードの外での防衛は、ただ危険を晒すだけとなる行為であると言った意味を含めて。
「すまん、ナタリアちゃん。もう少しだけでいい、待ってやってくれないか？」
　武道が同じように階下へと感染者を突き落としながら、答えを返す。
「申し訳ありませんが、意図が理解出来ません。本来であれば、上の洗剤をここに撒いたほうが早いでしょう」
　――その言葉に、武道の表情が変わる。
　思考としては瓢と異なるが、ナタリアもまた、逃げる為であればそれが例え自分であったとしても、犠牲を厭わない考えを持っているのだ。
「……気づいてたのかよ」
「えぇ、確認はしています。必要な事でしたから」
　呟きは優から、そして、ナタリアだけが瓢により隠された洗剤を発見していたのだ。
「ん～……それなら、僕が見てきたほうが早いかも知れないね」
　不意にタルトがその言葉を口にする。
「それは……そうか、タルトちゃんの力なら！」
　全員の目が、階下で奮戦するがおーの姿に向けられる。
　――感染者は、邪魔をするがおーを押しのけはするが、そちらに気を向ける事は無い。
　ならば、タルトの力を使えば、ここから抜けて修達の状態を確認出来る可能性は十分にあったのだ。
「頼めるか、タルトちゃん」
「ブドー先輩のお願いならね。それに……さっきの話も聞いちゃってたし」
　瓢が裏切りを考えていた事、そしてそれを全員が否定していた事。
　それら全てを聞いた上で、タルトは武道がそれを望むなら手伝うと口にする。
「よし、だったら急がないとな！ 道は俺と優くんが作る、それで――」
　昇ってくる感染者にキリは無い。
　だからこそ、油断をすべきではなかったのだ。
　――武道の眼前に迫る感染者の姿に対して。
「ブドー先輩！」
　持っているのが長柄のモップである為、即座の行動には移れない。
　犠牲は最小限に、腕を顔の前に出し、噛み付こうとする感染者に対抗するが――
「会話に集中している暇があるなら、前を向いてください。迷惑です」
　ナタリアと透が、同時に武道の前の感染者を突き、そのまま階下へと落とす。
「行くのなら早く！ 俺たちも援護します！」
　その状況に中てられた、とでも言えばいいのか。
　透が先に行くように指示を出し、刀とナタリアもそれに従う。
「急げ、響。余り長くは持ちこたえられないからな」
「うん！ 御剣くんも、しっかりね！」
　ここまで運んで来ていたバケツの水を被り、タルトは全身が水に浸ることで、その姿をチェシャ猫に変化させる。
　変化しきれていない道具は全て武道に渡し、その中には元々武道から預かっていた特効薬もあった。
「ろっこんが切れる前に戻ってくるように！ 絶対忘れるなよ！」
　武道の言葉を背に受け、開いた道を通り、タルトは階下へと降りていく。

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【構築成功】
Ｂ５第二バリケード：強度2.0（3-4・3-7）

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【Ｂ４：教室前廊下】

　予想通り、変化したタルトに感染者は興味を示さず、ほとんど素通りの状態でタルトは３階の廊下に降り立つ。
　――その先に見えるのは、もう少しで天井に設置されたスプリンクラーに届くまでに燃えるバリケードの姿。
　それ以外には感染者の姿が見えるだけで、目的の修達の姿は見つけられなかった。
　ならばどこに居るのか――考えられるのは教室内だけであり、タルトは一つ一つの教室を、足元の風取り窓から覗いていく。
　その中の一つ、３－８の教室内で、タルトはようやく修達の姿を確認し、様子を見るべく中に入る。

「！ な、なんだ猫か、驚かせるなよ……」
　警戒するように、信彦が教室内に紛れ込んだ猫を確認する。
「でも……ここに猫って、おかしくない？」
「もしかして、響か？」
　修が、その猫――タルトの姿を見抜き、声をかける。
　それに一言だけ鳴き、返事を返していた。
「あぁ、見に来てくれたって事だねぇ。とはいえ、こっちはちょっと取り込んでるんだよぉ」
　由貴奈は指で、一人の人物を指し示す。
　その先にいる人物――壁にもたれかかる形で目を閉じている巴の姿を、タルトは確認していた。

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【使用確認】
後木 真央・呉井 陽太・響 タルト：ロッコン残回数０

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Round6 End

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▼各グループ状況▼
Ａ：5/5 感染無し
Ｂ：5/5 感染無し
Ｃ：5/5 感染無し

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