カンゴクブレイク　～罪人がれ野火がごとく～｜リアクション

カンゴクブレイク　～罪人がれ野火がごとく～

■エピローグ
　ネコジマ監獄、通称ネコカンの大脱走事件は瞬く間に世間に広まった。
　それは事件の死亡者がきわめて多かったことに起因する。
　上下左右、霧島有祈、添木牡丹、椿美咲紀、新田亮、八神修、他多数……。
　その中に、脱獄を終えてから死亡した人間も確認されていた。
　朝鳥さゆる。
　乗り捨てられたボートの上で、陵辱された死体として発見された。
　その表情はどこか、自分の行く末に満足したような、無残な死体でありながら美しい、奇妙な死に方だったという。
　一方で、脱獄後に行方が分からなくなっている人間も多い。
　アダム・スメルディン、久須部紀伸、須藤清一郎、ナタリア・シシロヴァ、屋敷野梢……以上五名だ。
　この中から、ある一人の今を語ることで、この物語を終えることにしたい。

　ある麻薬組織が壊滅してから暫くして、新たにその土地で勢力を伸ばした麻薬組織がある。
　元々は幹部だった男がトップを罠にはめ、権力を奪うという形で生まれた組織である。
　現在トップにあるこの男は豪邸に暮らし、日の当たるプールサイドで椅子にもたれかかっていた。
「ごきげんよう」
　頭に何かが押しつけられた。
　声に覚えがある。
　震えが顎からくる。
　目だけで上を見ると、屋敷野梢が微笑んで彼の顔を覗き込んでいた。
「け、消したはずだ、おまえは……」
「『そういうこと』にお詳しい協力者がいたもので」
　梢の後ろには、アダムが黙って立っていた。
「け、警備の人間は……」
　アダムの後ろから、ナタリアが顔を覗かせる。
「俺を殺してもルートの確保は……」
　視界の端で清一郎と紀伸がそれぞれ小さく手を振って見せた。
　梢の指が引き金にかかる。
「ま、待ってくれ！　金を払う！　持っている金全部払う！　組織も渡す！　だか――」
　銃声が鳴り響く。
　遠く遠く。
　海鳥の声に混じって。

このページにイラストを設定する