ヒーローズ！外伝～消し得ぬ炎の上の日常～｜リアクション

ヒーローズ！外伝～消し得ぬ炎の上の日常～

　『アーク』が擁する研究室にて。加瀬礼二は、極めて紳士的に笑み零した。
「それでは、五十嵐博士。改めて、ご協力のほどよろしくお願いしますね」
　礼二の言葉に、五十嵐尚輝はぼそぼそと応じる。
「こちらこそ、よろしくお願いします。研究には、莫大な資金が掛かりますからね……」
「博士の研究に寄与できること、大変名誉に思います」
　礼二は『カンパニー』という、モレイビーが経営する企業が集まった組織に属している。
　世界経済へと、裏側から、常に大きな影響を及ぼし続けている『カンパニー』。
　所属する企業には有名企業も多く、何も知らずに働いている者も多数いる。
　その巨大なネットワークの中で、他組織との窓口としての役割を果たしているのが礼二だ。
「……まさか、こんな話が舞い込んでくるだなんて思いませんでした」
　――『カンパニー』は政府とも繋がりがあると噂に聞きましたし。
　五十嵐の言葉に、礼二はくすりと音を漏らす。
「噂は噂。それが真実なら、俺はここにはいないはず。そうでしょう？」
　切れ長の目を細めて微笑しながら、ごく冷静に頭を働かせる礼二。
（全く、油断のないことで。実験にしか興味のない狂人、という認識は改めるべきでしょうか）
　表だって他組織と争うことはない『カンパニー』だが、政府とは持ちつ持たれつの関係を保ってきた。
（ですが、その時代ももう終わり）
　先の事件から現政府の衰退を察した組織は、取引相手の変更を検討していた。
　モレイビーも人も関係なく、使えるものが全て、なのである。
（より大きな経済効果をもたらすものを重要視するのが、『カンパニー』ですからねぇ）
　そして、組織は政府に敵対する『アーク』にも目をつけ――、
（俺は、援助の見返りとして極秘実験に関する情報を手に入れた、と）
　更に礼二は、これより以前に、政府側の泉竜次博士とも接触を済ませている。
　そちらからもまた、政府の意向で、ハイパー・ロッコーン技術の機密を得ていた。
　情報を得て、動かして、自由自在に操って。
（どの勢力をどう動かせば『カンパニー』にとって有益かを見極めなくては、ですねぇ）
　五十嵐に丁重に挨拶をして研究室を出ると、礼二は煙草に火を付けた。
　煙が、細く天に昇る。
　礼二の脳は、煙草を吸うことで発動するロッコーンの能力で益々以って冴え渡った。
　表向きには、差別に与しない穏健派の非能力者として生きている礼二。
　けれど、実際のところは、彼は隠れモレイビーなのである。
　礼二が抱えている秘密は、多い。
（政府の情報を『アーク』に、『アーク』の情報を政府に、二つの組織の情報を第三者に……）
　必要とあらば燻る炎を再度燃え上がらせることも厭わないと、礼二は軽く口の端を上げる。
　そうして礼二は、大企業『ヴォルペ』の若き重役の顔になって雑踏の中に消えた。

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