ヒーローズ！外伝～消し得ぬ炎の上の日常～｜リアクション

ヒーローズ！外伝～消し得ぬ炎の上の日常～

　自身の能力を買い、何度も神社へと足を運ぶ政府関係者の男。
　彼へと、夏神零は冷えた眼差しを遣った。
「ふん……モレイビー同士、人間同士で戦している場合ではなかろうに」
「で、ですが……」
「拙者は戦う相手が異なるからな。お主もいい加減で、他を当たった方がよかろう」
　それでも、男は「また来ます」と懲りずに言い残して帰っていった。
　境内に一人で立つ零の唇を、ため息が震わせる。
　政府関係者に『アーク』の人間……零の神社を騒がせる輩は、少なくない。
　――朱雀の舞・天舞。
　零のロッコーンは、舞いによって傷を癒す。
　武に優れ、癒しの力をも持つ零は、複数の勢力から協力を請われていた。
　尤も、零はその誘いに少しも心を惹かれず、今日も神社を守る暮らしを続けているのだが。
「『アーク』に『ヒーローズ・プロジェクト』……勢力には興味が無いが……」
　それでも、現を生きるものなれば、噂くらいは耳に入ってくる。
　どの組織にも属さず、神主として神社と共にある零とて、先の戦いのことは聞き及んでいた。
（『ノアの箱舟』にモレイビー狩りか。今の世の理は、無駄に血を流すのを好むようだ）
　零が呆れの色が濃い再びのため息を漏らした、その時。
「た、たすけ……」
　境内へと、一人の青年が駆け込んできた。
　肩を抑えていて、そこから細く血が伝っている。
「あなたが、噂に聞いた赤き翼の……」
　どうした、と、零が問うよりも早くに、青年の口から音が零れた。
　時折、街へふらりと出向いては人々の傷を癒し、身体の痛みを取り除いていた零。
　その結果として、様々な組織からの勧誘が絶えなくなってしまったわけだが、
（こうして、拙者を頼ってくる者もいる……）
　零は、落ち着いた声音で、膝を折った青年へと声を掛けた。
「お主、どうした。モレイビー狩りにでも遭ったか。それとも、野良モレイビーにでも襲われたか」
「は、はい、モレイビーに……流石に、赤き翼の者――あなたの元まで追ってくるとは思いませんが……」
　実際、青年を追い掛けてくる怒声も、殺気もない。
　零はすぐに、青年の為に洗練され切った所作で舞いを舞った。
　対象が一人の為、ラムネ菓子を口にする必要はない。
　故に、朱雀の舞の名前にふさわしい赤い翼こそ背に顕現しなかったが、青年の傷は幻のように消える。
「これでよかろう。しかし……全く、世も末だな。力ある者の傲慢が、人に血を流させるか」
「はい……ですが、救っていただいた身で恐縮ながら、私は、まだ希望はある、と」
　そして青年は、『平和への翼』というＮＧＯについて語った。
「『平和への翼』か……」
　口元に手を宛がって、零は思案する。
（モレイビーの危険性を訴える、という点では『ノアの箱舟』と似通っている）
　しかし、詳細な主張や行動は随分と違っているように、少なくとも今は思われた。
　幾らか、心が動く。
（どんな者達か、見届けてみるか……）
　青年が立ち上がるのに手を貸してやりながら、零は胸の内に頷いた。

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