To you of mirrored｜リアクション

To you of mirrored

■ケース５：今という交差点
「お金？　無いからバイトしてるんですけど。見て分かんないの？」
　椿美咲紀は海沿いの通りで不良に絡まれていた。
　金でも持っているように見えたのだろうか。それともほいほいお金をくれる女子に見えたのだろうか。
　不本意ながら心外だ。
　自分だって、お金持ちで札束ばらまけるようなセレブに……なれるものならなってみたい。
「どいてよ。バイト行くの！」
　不良を押しのけようとするが、その腕が掴まれた。
　バッグを奪われ、財布を抜かれる。
「返してよ！　大事なお財布なんだから！」
　蹴りつけようにも、まるで丸太でも蹴っているようだ。相手はへらへらと笑っている。
　おまけに、ひっくり返した財布からは小銭がからからと落ちるだけだった。
　なんだかもう悲しくなってくる。踏んだり蹴ったりとはこのことだ。
　不良の一人が美咲紀の豊満な胸を見て、どこかに隠してるんじゃないかと言い出した。
「だっ……誰か助けて！」
　そばを通りかかった誰かに呼びかける……と、たまたま通りかかったらしい宇津野京と目が合った。知り合いだ。助かった。
「ひっ……！」
　京は完全におびえている。
　不良があっちに行けと目線を送ると、京はそそくさと立ち去った。
　助からなかった。
　さようなら私の貞操。
　近づく不良の手に目をぎゅっと閉じると……。
「てめぇら、そこで何やってる！」
　兄貴の声だ。
　と思ったときには不良が三人ほど殴り倒されていた。
　一発ＫＯ。それも三回連続だ。
　不意打ちとはいえ出来すぎている。
　誰かと思えば、相手は八神修だった。
　しかも素手の拳で殴ったものだから、軽く血が滲んでいた。
　なんと言うべきだろう。
「た、助けてくれて、ありがと」
「……おう」
　修はそっぽを向いている。
　二人はそれ以上なにも言わずにいた。
　言わなくても、分かっているような気がして。