To you of mirrored｜リアクション

To you of mirrored

■ケース４：今日がいつまでも続きますように！
　大天使天吏はおねぼうさんだ。
　ばたばたと大学へ行く準備をする姉を横目に、あくびをしながらリビングへやってくる。
　朝陽の差し込む部屋には、新聞を広げるパパと目玉焼きを作るママがいる。
　なんていつも通りの光景。
　姉は忙しそうに、トーストを適当に頬張って上着を羽織っている。
「朝ご飯そんなので大丈夫？　学校で倒れたりしない？」
　姉は大丈夫だと言って、忙しそうに飛び出していった。
　仕方ないんだから。
　そう想いながら、ママの作った目玉焼きに箸をつけた。

「新しいチーク使ってみたら？　きっと可愛くなるわよ」
　ママに言われて、天吏ははたと思いついた。
　友達に勧められて買ったリップとチークだ。お小遣いで買うにはちょっとためらったけれど、たまに使わせてあげる約束でママと一緒に買ったものだ。
　なるほど先に使わせて様子を見たいわけだな。
　などと。
「今日もおいしかった！　ごちそうさま！」
　ぱちんと手を合わせて、天吏は部屋の化粧台に向かった。
　三面鏡とケースを開く。早速チークとリップを試してみると、なるほど確かに、自分の肌色にぴったり合うようだ。
　友達にお礼を言わないと。
「そうだっ、この前のマフラーと合わせてみよっ！」
　クローゼットを開けてマフラーを引っ張り出す。姉とおそろいのマフラーだ。
　首に巻いて、鏡を覗き込んでみる。
　今日も楽しい一日になりそうだった。

　大天使天吏は誰とでも仲良くしたかった。
　パパやママや、友達や先生や、姉や近所の人たちや……あれやこれや、色んな人のおかげで今の自分があると思っているからだ。
　なんだか毎日難しい顔をしている椿美咲紀や、日頃から口を利きたがらない佐藤瀬莉とも、できれば仲良くしたい。
　皆仲良く毎日楽しく暮らせれば、人生はきっとハッピーだろう。
　今日も今日とて、ミーハーな友達に誘われて部活の見学にやってきた。
　友達は篠宮六花センパイが大好きらしく、盗撮っぽい生写真を持ち歩いている。本人が楽しそうなのでよしとするが、天吏からすれば神嶋征一郎のほうが普通にカッコイイ気がする。
　前者がアイドルとすれば、後者はモデルといった所だ。……区別してはみたが、違いはちょっとよく分からない。
　とにかく、カッコイイ男子が弓を引くたびにキャーと叫んでみせるのは、なんだか楽しいイベントだった。毎日がもっと楽しくなりそうな、身近で素敵なイベントだ。
　ふと見ると、下校中の佐藤瀬莉が目に入った。
「あっ、佐藤さん。今帰り？」
　手を振って呼び止める。
「神嶋センパイ格好いいよ。一緒に見ていこうよ」
　普段からつまらなそうにしている彼女でも、一緒にこうして声を出していれば楽しくなるだろう。身近にこんな楽しいことがあると知れば、きっと人生も楽しくなるはずだ。
　けれど、瀬莉は勉強があるからと言って帰ってしまった。
　勉強……あまり楽しそうではない。
　今は学生なんだから、もっと楽しいことを探してもいいんじゃないかな。
　……なんて思いながら。
「かっこいー！　がんばってー！」
　今日もまた、もう一つ楽しさを見つける天吏であった。