To you of mirrored｜リアクション

To you of mirrored

■ケース１０：見える世界の変え方を
　商店街にある眼鏡店は、看板や店構えの古さに反して店主がえらく若いという。
　真境名アリサはそんな噂を聞きつけて、おもしろ半分で浅葱眼鏡店の扉を開いた。
　最近鬱屈とすることばかりで、何か目新しい刺激が欲しかったところである。
　そんな彼女にとって、浅葱眼鏡店は不思議な場所だった。
「いらっしゃいませ」
　目つきの悪い店主、浅葱あやめがにっこりと笑って出迎える。
　アリサの想像する眼鏡屋さんとは、化粧品売り場のように照明のギラギラした店内を赤や青やオレンジのファッショナブルな眼鏡フレームが棚をぎっしりと埋めた若者だらけの店……といった所だ。少なくともショッピングモールに入った店はそんな場所ばかりである。
　それにひきかえ浅葱眼鏡店は、古い博物館の空気によく似ていた。
　イタリア式のショーケースへ等間隔に納められた眼鏡フレームは、どれも高級なアクセサリーを思わせる。中には宝石をちりばめたものや、金や銀で細工されたものすらあって、アリサの胸を不思議と躍らせた。
「新しい眼鏡を、お探しですか？」
「えっ……ああ、はい」
　なんで分かったのだろう。
　今は眼鏡もしていないし、そこまで目が悪いようなそぶりもしていなかったのに。
「お勉強用でしょうか。でしたら頑丈さよりも、軽さがあるとよろしいかと思います」
　あやめはアリサの鼻のつけねにある独特のくぼみを見て『一日にすこしだけ、ただし定期的に眼鏡をかけている人だ』と判断していて、年齢と店内を見た反応から『勉強用の眼鏡を探すついでに興味本位で来た人だ』と判断したのだが……そこまで頭の中でしっかりと組み立てたわけではない。
　日常的な接客の繰り返し。日頃からよい接客をしようと積み重ねた結果の、いわば本能的な行動である。
　ショーケースを開くあやめ。
　アリサはその中央に納められたフレームに胸を打たれた。
　一見派手で、奔放で、本来なら嫌うはずのタイプでありながら、なぜか気持ちまで軽くしてくれそうな、そんな気持ちにさせられたのだ。
　あやめにフレームを渡されて、かけてみる。アンティークショップに売られていそうな古い金縁の鏡に自分を映してみた。
　びっくりするほど似合わない。
　もう明日なんかどうでも良くなるくらい、奔放な自分がそこにいる。
　けどなぜだろう。
　なんだか笑えた。

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あとがき

担当マスター：青空綿飴
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　もしこんな仕事をしていなければ。
　もしこんな趣味に目覚めなければ。
　もし別の家庭に生まれていたら。
　ＩＦの想像はいつでも誰でもつきないものですが、どんな想像をしても必ず『きっとこうなるんだろうな』という予想が加わるものですよね。
　それはもしかしたら、あなた自身が持っている芯なのかもしれません。
　生まれた家が変わっても、仕事が変わっても、趣味が変わっても、あなたに残った僅かな軸。
　周囲についた肉を削って削って、最後に残ったそれが、一番大切なものだったりするものです。
　今回はあえて逆側から掘ることで、それを手っ取り早く浮き彫りにできた……のだとしたら、素敵なことですね。

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