To you of mirrored｜リアクション

To you of mirrored

■ケース２：明日なんて大嫌い
　椿美咲紀は早朝に目を覚ます。寝子電の走る音に揺すられるからだ。
　布団をはいで起き上がり、がりがりと頭をかき混ぜた。
　眉間に皺を寄せているのは寝起きのだるさ故だが、彼女の場合はいつでも気だるいようなものだった。
　いつでも気だるいなら、今が朝だろうが夜だろうが一緒である。
　起きればよい。起きて動けばよい。
　また、明日をしのぐための今日が始まるのだ。

　八神修は早朝に目を覚ます。部屋の扉を蹴りつける妹がいるからだ。
　扉を開けるまでも無く、言うであろう台詞は想像がついている。
「馬鹿兄貴！　学校に遅れるよ！　さっさと起きろ！」
　一言ずつ扉を蹴る。本気で蹴れば一発で壊れてしまいそうなもろい扉である。
　扉というか、安襖である。
　畳敷きの部屋を襖で区切っただけの、兄妹の部屋だった。
「うるせー」
　気だるい身体を起こして窓を見る。
　カーテンのかかっていない、むき出しの窓だ。
　妹は『カーテンもかけないなんて』と文句を言ったが、どっちでもいいような気がする。金がかかることを考えれば、むしろないほうがいいとすら思えた。
　ぼうっとしていると、また扉を蹴る音。
「わかったよ。うるせえな」

　兄弟の部屋は襖で分けただけのものだが、他に部屋があるというわけでもない。
　畳み部屋の他には、最低限の風呂とトイレ。片口コンロと小型冷蔵庫。壊れた換気扇。これが彼らの空間である。
　料理をする臭いがする。といっても、冷凍した白米やらなにやらをレンジで解凍する音だ。
　キッチン（と呼ぶには難しい玄関付近のエリア）を覗いてみると、美咲紀が弁当をこしらえていた。
「今日も弁当かよ」
「学食買うお金なんて無いでしょ。ほら、兄貴のぶん」
「おう」
　修はそう言って、弁当……ではなく美咲紀の胸を鷲づかみにした。
「なにしてんだ！」
「眉間に皺寄せすぎだろー。彼氏できねーぞ」
「それとこれとが関係あるか！」
　腰を蹴りつける美咲紀だが、修は天才的なスウェーでそれを回避していた。既に美咲紀の背後にいた修は、弁当をぶらさげて家を出る。
「ははっ、じゃあな」

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