２月の★ハッピーバースデー｜リアクション

２月の★ハッピーバースデー

　テーブルの上には、大量のお菓子とジュース、それから彰尋手製のローストビーフ。
「それじゃ改めて……」
　アカリの合図に合わせ、彰尋の誕生日パーティに集まった面々が同時にクラッカーを鳴らす。
「鴻上、誕生日おめでとー！」
「誕生日おめでとう！」
「おめでとう、鴻上」
「アッキーおめー」
　アカリにロベルトに、悠月に璃音に、口々に祝われて、彰尋は照れた。
「鴻上、好きな音楽のジャンルは何だ？」
　悠月に問われ、彰尋はしばらく考える。
「そうだなぁ、映画とかで使われる曲とか、そういうのかな」
「映画、……映画か」
　記憶を探ってか、悠月は考え込む。
「そーいえば鴻上さ、演劇に興味あるんだってな？」
　映画と聞き、アカリが目を輝かせた。彰尋は頷く。
「祖父の影響で」
「言ったか覚えてねーけど俺、演劇専攻なんだ」
　同じ興味を持つ仲間を見出した嬉しさに、アカリは思わずテーブルから身を乗り出す。
「本読みとかなら付き合うぜー？」
　手を取らんばかりに言われ、彰尋は目を丸くする。そうして、笑う。
「たまに一人で公園で練習してる。今度、一緒に出来たらいいな」
「やる！　やろーぜ！」
「思えば鴻上の演技、見たことないな」
　盛り上がる二人の熱に浮かされたように、ロベルトが手をあげる。
「見たいな。いいかい？」
「そうだな、……観て、くれるか？」
「そーいえば前も観てくれたよな。あの時は俺と獅子目だったけど」
　話がひと段落したところを見計らい、悠月が立ち上がる。窓辺に移り、赤銅の髪を揺らし演劇じみた仕草で一礼する。
「これが俺からのプレゼントだ」
　僅かに悪戯っぽく笑んだ榛の瞳は一転、真摯に誠実に、十六年前の今日に生まれた少年を見つめる。
　静かに優しく、唇から流れ出すは異国のアニメーション映画で使われた歌。元々は伸びやかに自由を謳い、新しく知る世界への喜びを歌い上げるその歌は、その途中、同じ旋律を帯びた今日の日のためだけの即興のバースデーソングに変調する。
「――誕生日おめでとう、鴻上」
　歌い終え、もう一度優雅に礼をする悠月に、その場の全員が惜しみない拍手を送った。
「じゃ、俺からはこれな」
　歌を贈られたのは初めてだと照れる彰尋に、アカリが渡したプレゼントはシンプルなシャープペンシル。
「何が欲しいとか解んなかったし、実用的な物の方がいいかなーって？」
「僕からも実用的なものだね……喜んでくれるといいけど……」
　アカリに続き、ロベルトがラッピングされた万年筆を差し出す。
「ありがとう、喜んで使わせてもらうよ」
「アッキーは使わないだろうけど、確か弟か妹いんだよね？」
　欲しがるかはわからんけど、と璃音は数日前にゲームセンターのUFOキャッチャーで手に入れたきり鞄に仕舞いこんでいた、ぬいぐるみ付きのキーホルダーを渡す。
「ああ、双子の弟と妹が居る」
「そんじゃ、良かったらあげたってー」
　友人たちからのプレゼントを目の前に、彰尋は目を瞠る。アカリも悠月も、ロベルトや璃音だって、今日が己の誕生日だということを知ったのは今日の今日だろうに、だからこうして祝ってくれるだけで充分なのに、
「……ありがとう」
　胸いっぱいの嬉しさを伝える言葉を今はそれしか思いつけず、それでも彰尋は心からの言葉を口にする。
「ありがとう」