授業風景〜１年９組と１０組の男子の場合〜｜リアクション

授業風景〜１年９組と１０組の男子の場合〜

「怪我しないようにちゃんと準備体操するんだぞー」
　浅井先生のかけ声の下、イッチニィサンシと９組、１０組の男子は準備体操を始めた。
　一番は渡さないとメラメラ闘志を燃やす生徒もいれば、コースを頭に叩き込んで静かにイメージを高める生徒、なんでもいいけど適当に流そと覇気がないのもいるし、腹減ったことしか考えてないのもいる。
　これだけ人がいれば思うことも様々、千差万別、色々ある。
「おーい、みんな」
　マウル・赤城・スティックは、腕にドリンクボトルを抱えて声を上げた。
　今日の１０組の食事当番である彼が作った特性スポーツドリンク”Ｘカリスエット”が中に入ってる。
「水分補給はしっかりしないとだめだぞ。必要な人は持っていけよー……って、持ってっても大丈夫ですよね？」
　念のため浅井先生に訊いてみた。
「ドリンクが必要な距離じゃないけど……まぁドリンクぐらいいいだろ」

「男子いいなー。真央ちゃんも校外ランニングのほうが良かったのだー」
　体操着姿の後木真央はほっぺをぷっくり膨らませた。
　今日の９組、１０組の女子は体育館で創作ダンスなのだ。
「こっちにこっそり交ざったらダメかなー」
「絶対バレるでしょ」
　同じく体操着の月守紗智が言った。
「そんなのやってみなくちゃわからないのだ」
　真央は、陸上部の仲間の志波拓郎に声をかけた。
「拓郎ちゃーん」
「……ん？」
　準備体操中の拓郎は怪訝な目で見返す。
　代わって欲しいと話すと、彼はいつもどおりの眠たそう目でボソリと答えた。
「授業は……ちゃんと、受けた方が……いい」
「ほらー」
「うう……真面目なのだ。拓郎ちゃん」
「……大体なんでランニングに行きたいの？」
　紗智が言った。
「いやーそれがこの間、ねずの湯の近くのネコの集会所で、ツンデレ美猫さまを発見したのだ」
「ツンデレ美猫さま？」
　紗智の頭の上にもやもやと、きれいな毛並みの、涼しげな瞳のオス猫の姿が浮かんだ。
「あの美猫さまとお友達になりたいのだー！」
「……放課後に行けばいいのに」
　肩をすくめる紗智。
「ううう……せめて真央ちゃんの代わりに、美猫さまに煮干しとマタタビ粉を差し上げて欲しいのだ」
　そう言って、彼女はポケットからもしゃもしゃとおネコさまへの貢ぎ物を取り出した。
「……会えたら……な」
「あ。後木さん、もう体育館に行かないと」
「あうー」
　真央はネコの子のように、紗智に首根っこを掴まれてずるずる引きずられていった。

「……よーし、そろそろ始めるぞ」
　みんなを集めた浅井先生は、それから校庭を出て、校門に場所を移した。
「今日はタイムは計らないし、順番も出したりはしない。完走するのが一番の目的だ。皆、怪我と交通ルールに気をつけて走るんだぞ」
「はーい」
「早く戻ってきた者は教室に戻らないで、ちゃんと校門で待つこと。いいね？」
　生徒たちは校門の前に並んだ。先生は一番後ろに下がった。
「それでは位置について……校外ランニング、スタート！！」
　先生の首から下がったホイッスルが、ピーーーッと勢いよく声を上げた。

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