降る雨｜リアクション

降る雨

「ちょっと、新井くん」
　帰ろうとした瞬平を引き止めたのは、風紀委員の優華だ。
「ああ？　何だ、また俺に突っかかる気か？」　
「私と勝負して頂戴」
　あまりに唐突な優華の宣戦布告に、さすがの瞬平も面食らう。
「私が勝ったら、今後は無闇に暴力を振るうのはやめてもらうわよ。いいわね？」
「ふん。風紀委員を名乗る者が、率先して喧嘩を仕掛けるのか？　どちらが風紀を乱しているのかわからんなぁ」
　売られた喧嘩は買う方だが、ここは敢えてニヤニヤ笑いながら、優華の挑発を受け流す。
「なっ、何よ。からかうの……？」
「ははっ！　果たし状や白手袋でも用意してくるか？　それなら体面位整うんじゃねえか……問題なけりゃ今度相手してやる、じゃあな」
「ちょっ、まだ話は終わってないわよ！　待ちなさいってば！」
　優華の制止を無視して、瞬平はきびすを返す。
　愛らしい少女の囀りは、いかにも心地良く。
　生真面目な彼女が、今頃かわいい顔に悔しい色をにじませているだろう事は、想像するだけで愉快で堪らない。
「行っちゃったねぇ」
　米太郎の方の新井くんが、暢気につぶやくのを優華はきっと睨みつけた。
「あなたもよ！　さっきの緑コートの彼といい、二人とも必ず更正させてあげるわ！！」
「ひーっ、ごめんなさぁい！！」

「みゃぁーん」
　流花に擦り寄ってきたのは、豪奢な灰色の毛並みの猫。
「ああ、君、ここに居たんだね。怪我はなかったかい？　心配したんだよ」
　ほっと胸をなでおろしながら、流花は猫を抱き上げる。
　小さな命の柔らかな暖かさが、腕を通して伝わってくる。
　流花はずっと、見失ったこの猫の無事を案じていたのだ。
「人懐こいね、飼い猫なのかな？　君のお陰で、たくさんの人が助かったんだよ。ありがとう」
　そっと頬を寄せる流花を、猫はぺろりと舐めた。

　さて、甘味処へ繰り出したメンバーだが。
　幸に、彼女が父親に放った責める言葉が引き金となって発現したろっこんの力によって、父親に怪我をさせてしまった事を知る。
（なるほど、もれいびだったのか）
　父子家庭である幸の境遇を自身のそれと重ね、何だかんだでついてきてしまった譲である。
「まあ、ろっこんは別としてだ。聞け飯田。母親が出てったのはお前が何も言わなかったから、いい子のふりをし続けたからだ。置き去りにされて哀しいと母親に、独りぼっちが寂しいと父親に声に出して訴えろ。あの男と違ってお前はまだ手遅れじゃない、それを忘れるな」
「心配しているのはわかるが、幸だって悩んでいたんだ。そんな言い方をするな」
「だ、誰が心配なんかするか！」
　まひるの指摘に、譲はつい横を向いた。
　まひるは肩を竦めたが、気を取り直して幸に話しかける。
「友達になろう、何でも相談して欲しい」
「あ、ありがとう……」
　幸がはにかむ。
　一同に和やかな空気が漂い始めた時。

　ちょいちょい。
　譲の肘を突っつく者、一名。
「ん？」
　白い封筒を手にした、没がいた。
「うっ……まさか……まさかーっ！！！」
　そのまさかです。

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