【明かされた影の思い出（トップ記事）】

　午後の授業も始まり、満腹になった事でちらほらと惰眠を貪る生徒達の姿も見え始める。
　だが、そんな中で、授業中だというのに小声で色々と話す生徒達の姿もあった。
「……どうやら、行き渡ったようでござるな」
　零は、そんな様子に満足と言った表情を浮かべる。
　今回の新聞では、元々二部構成の編集を行っていたのだ。
　朝に配られたのは教師達や風紀委員といった者達が見ても特に問題のない物が載せられた【光】としての新聞。
　そして、昼休みの間に生徒達にだけ配られた新聞は、そうした事柄を無視し、問題があるような記事として扱われた【影】の新聞であった。
「拙者の記事も載っているであろうが……さて、どのような反応が返ってくるやら」
　零が書いた記事は、今までに体験した不思議と呼ばれる様々な出来事をまとめたものである。
　人が読むことで、どのような反応があるのか。
　そんな事を考えつつ、零は授業へと戻っていく。

---

寝子島での奇奇日常な日々

---

　世の中には説明のつかぬような事件・事象は多々起きているのは、この寝子島とてよくあるものでござる。
　拙者もまた神社の神主であり、かつ巫女と併用し活動し魑魅魍魎、悪鬼悪霊との交戦等代々その手の言わば闇と対峙する者も存在する。

　猫鳴館では妙な猫の鳴き声が聞こえ、霊感ある者立ち共に古き井戸に双頭の化け猫もいたり。
　時には、桜台墓地周辺にてキョンシー等と言った生きる屍の存在の騒動とその鎮圧戦も行われた。

　他にも多々そのような不思議な事はあったが、ろっこんもまたその不思議な日常と同じく。
　世の中にはまだまだ多くの奇奇日常が存在する事を伝えよう。

　そして今後もまた不思議な事件事象が起きるであろうが、興味深く末永く見届け注視して行こうではないか。

記事提供：夏神 零

---

【明かされた影の思い出（異変記事その１）】

　零と同様に、ラッセルもまた新聞が二部構成なのは知っていた。
　だが、零とは違い、丁度授業も自習という事も手伝って、ラッセルは級友達と楽しげに教室で話していたのだ。
「どうよ、上手くできてるだろ？」
　但し、ラッセルが語るのはあくまで【光】側の新聞である。
　ただでさえ、余り部数を刷っていない【闇】側の話題を出された場合、ラッセルには対処方法がないから、と言ったのがその理由であった。
「……は？ もう一つあるだろうって？」
　とは言え、人の口はそう簡単に閉じれるものではない。
　既に知っている級友から、ラッセル自身も記事を上げていただろうという突っ込みの元、あるなら出せとのコールが起こっていたのだ。
「だぁ、もう分かったっての！ ちょっと待ってろ、どうにかして持ってくるから！」
　夢かも知れない、そんな記事を書いたラッセルは、結局教室から抜け出し、幾つかのコピーを取らせられる形となってしまっていた。

---

こどもになった日

---

　夢かもしれない話、そう前フリして話そう。

　俺の世界の周りが子供になった。人が動物が、みんなみんな子供。
　きゃーきゃーわーわー騒がしくてその中でぽつんと一人でいた。

　原因を探ろうと震える足で外にでる。
　皆、自分とは違う容姿をして遠巻きにみていたのを思い出すから。
　頭の中ふりきって虫取り少年を追いかけた。

　そこでヒヨコになった、俺。
　手の平の中、世界がもっとでかくなる。

　子供たちの手の中、黒いヒヨコに出会ってまた世界が変わった。
　どうやらこの世界は間接的にそのヒヨコ、鴉がつくっていたらしい。

　成長したカナリアに戻れた俺は鴉をおいかける。

　――だが、カナリアの大群の嵐にきえてしまった。

　あれは一体なんだったのだろうか。
　「アホー」という声を聞きながら再会を望みたい。
　俺はただ、真実を知りたいから。

記事提供：桜井 ラッセル

---

【明かされた影の思い出（レポート記事その１）】

　ぼんやりと窓の外を眺め、教師の声は大天使 天吏に届く事無く教室に響き渡る。
「……鳥さん、飛んでるね」
　目下、天吏の集中は目の前の授業ではなく、窓の外を飛ぶ数羽の鳥に向けられていた。
　その中でふと思うのは、新聞の記事として匿名で提供した自分のレポート。
　２羽のカラスが起こした、不思議なその事件の内容を天吏なりにまとめ、それを新聞に載せるよう頼んでいたのだ。
「……今日はカラスさん、いない」
　ポツリと呟く天吏の視界には、そのどちらのカラスの姿も映ってはいない。
　しかし、興味の対象は授業に向く事無く、ただのんびりと天吏は空を飛びまわる鳥達の姿を眺め続けていた。

---

寝子島における鳥類の生息地帯、行動についてレポート

---

　神奈川県湘南地方の木天蓼市に浮かぶ寝子島。
　四方を海、北は九夜山に囲まれた温暖、太平洋岸式気候に属する島。
　各地では豊かな自然に住む鳥が発見され人間と共存している。

　しかし最近、寝子島内で確認されている不思議な力がかかわる騒動に、彼らが巻き込まれる、或いは関わっている事例が確認されている。

　最初の事例は野鳥であるカラスが不思議な力のせいで羽根に水が溜り飛ぶことが不可能になり、学校で不可解な事件を起こした通称【トレペちぎり】事件。
　不思議な力は対象者の身体を衰弱化させるというものであり、悪意があればそれは恐ろしい事態に発展すると推測される。

　もう一つの例として最近学校周辺にカラスが現れ、それを不思議な力をもった人間が”カラスを襲う”という事例を挙げる。
　何故彼ら人間側がそのような行動を取ったかは不明である。

　鳥は被害者であるのか加害者であるのか。
　そもそも不思議な力と鳥には何の共通点があるのか。今後も注視すべき事案である。

記事提供：匿名

---

【明かされた影の思い出（天声人語）】

　天吏のレポートに続く形で乗せられる記事は、普通の新聞でよく見かけられる【天声人語】に近い代物であった。
「ふふ、ちゃんと載せていただいたようですね」
　本来授業が行われているはずのこの時間に、エレノア・エインズワースの姿は中庭側にある食堂テラスにあった。
　【闇】側の新聞を手にした際、エレノアは自らが書いたこれをゆっくりと読みたいが為に、授業をサボっていたのだ。
「ですが、野々さんの答えは少々つまらないものでしたね。もう少し、楽しい答えが聞けると思っていたのですが」
　ティーカップはないが、近場で買った缶の紅茶に口をつけながら、エレノアはその感想を口にする。
　天声人語を書く上で、もっとも聞きたかった、その人物――ののこの事を。
「さて、まだ記事はあるようですし、時間もたっぷりとあります。のんびりと読ませていただきましょうか」
　既に午後の授業全てをサボるつもりであるエレノアには、確かに時間は十分にある。
　暖かい午後の日差しの中、エレノアはゆっくりとした手つきで新聞の先を読み進めていく。

---

寝子高生が殺人鬼に襲われ重傷を負った事件

---

　悪徳に荒廃した街を殲滅せんとする神に対し、取り成しの交渉を行う――旧約聖書における神と人間との対話は、不可侵な存在と神を解釈する文化の人間には新鮮に映る。
　そこには敬意と信条を混同しない人間と神との絆が伺える。
　
　もしアブラハムが太鼓持ちなら交渉の機会も与えられなかっただろう。
　旧約聖書の絆に比べると、落神と我々の関係は希薄に思える。

　先日寝子島海浜公園にて我が校の学生数名が殺人鬼に襲われ重傷を負った。
　校内の関心とは裏腹に、関係者は一部を除き口を閉ざしている。
　その真意には、入学式の抱負で青春への期待を語った神様への「配慮」が関係しているだろう。
　「知らぬが仏」ならぬ「知らぬが落神」。
　その言葉の基にどれ程の無理が通ってきたのか。
　目先の安寧のため真実を隠し、殺人鬼を庇い立てする羽目になるなら本末転倒であろう。

　先日耳にした「神様」の言葉が胸に残る。
　曰く【ちょっと気になっているけど、どうなっているのだろう。だが、教えない理由があるのなら、無理に聞くつもりはない】

　彼女が真実を知った時、変わらず我々をパートナーと認めてくれるのか。

　「汝嘘を吐くなかれ」
　聖書に依るまでもない道徳規範であろう。

記事提供：ベラドンナ

---