【思い出の記録（委員会編その１）】

　昼休みが始まり、校舎内の声が一際大きくなる中、保健室はその声から逃れるように静かな空間を保っていた。
　そんな中で、もぞりとカーテンが閉められた奥のベットの毛布が動く。
「……あれ、お昼休み？」
　ひょっこりと、毛布の隙間から上穗木 千鶴が顔を覗かせる。
　体調が悪い、という事でこうして授業から抜け、千鶴はベットで休んでいたのだが、実際の所はただのサボりである。
「じゃあ、ご飯を食べないとね。ちゃんと持ってきてるし」
　もぞもぞと体をベットの中で動かしながら、カーテンを開き、ベットスペースから顔を出す。
　机の上には、鞄と共に寮のメイドさんが毎日作ってくれている弁当がちょこんと置かれていたのだ。
　――だが、その場所にはもう一つ、千鶴が貰い損ねていた新聞が置かれていた。
「うんうん、効果絶大、かな？」
　お弁当を開け、そのまま新聞に目を通し、自分が提供した記事を千鶴は見つける。
　保健委員として、真面目に書いた記事――と見せかけた、自分のサボりを邪魔するな、というメッセージを籠めた記事を。
　一人満足げにしながら、千鶴はのんびりと箸を進めていく。

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正しい保健室の利用の仕方

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　具合が悪い時は無理をせずに早めに。

　ケガのときは無理に動かさないことも大事。先生を呼びましょう。

　利用するときは先に休んでいる人がいることもあるので静かに。

　奥のベッドのカーテンが閉まっていたら休んでいる人がいます。【特に】静かに。

　うがい手洗いで風邪を予防しましょう。また、梅雨の季節です。食中毒に注意しましょう。

　保健委員より

記事コミュニティ：保健委員会
記事提供：上穗木 千鶴

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【思い出の記録（委員会編その２）】

　図書室では静かに。
　大原則であるこの決まりを守りながら、綾辻 綾花は少しだけ足を早めながら、この図書室の司書教諭である早川 珪の姿を探していた。
「珪先生はどこでしょうか……？」
　そこまで広くは無い図書室の中、少し探せば見つけられると思っていたのだが――果たして、その姿は本に埋もれるように、うず高く積まれた古書の中にあった。
「おや、綾辻さんだね。どうかしたのかい？」
　古書のタワーの中から、珪は顔を出し綾花の姿を見つける。
「あ、はい！ その、これが出来ましたので……」
　ようやく見つけた珪の姿にホッとした事とあわせ、どこか恥ずかしげに綾花は新聞を差し出す。
「あぁ、そういえば記事にすると言っていたね。確かに、朝から生徒の皆はコレに掛かりきりだったようだし」
　軽い笑顔を向けながら、珪は綾花から新聞を受け取る。
　その笑顔に、綾花はちょっとドキドキしつつ、新聞を読み進める珪の顔を追ってしまっていた。
「……うん、図書委員の仕事だからこんなものだね。大丈夫、問題ないよ」
　記事の内容は、あくまで図書委員の活動報告である。
　司書教諭として、珪もまた図書委員への手伝いも行っており、その上で綾花が今回記事にしたいと言ったこの内容を掲載前に確かめていたのだ。
「ありがとうございます。そう言ってもらえて、安心しました」
「はは、そんなに心配なんてする事はないさ。それに、活動報告は重要だからね。これで少しでも利用者が増えてくれればそれでいいさ」
　その言葉を綾花に掛け、珪はまた古書の整理へと戻っていく。
　そんな珪を手助けするため、綾花は珪へと手伝いを申し出、そのまま二人は昼休みの間、本の整理に追われる事となっていた。

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図書委員の活動報告

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【図書委員会の活動内容】
　・カウンター当番
　・本の整備や修復
　・蔵書点検
　・図書購入

　その他にも未返却図書の回収や曝書などを行いました。
　貸し出し図書を利用する際には、忘れずに返却をお願いします。

今後の予定
　・本のデータ管理
　・棚の配置換え
　・特集コーナーを設ける
　・新聞部と共同で読書フェアーを開催する。

　※特集コーナーでは、生徒からの意見を募集しています。
　　読みたいジャンルの本があれば、司書教諭である早川 珪先生までご連絡ください。

記事コミュニティ：図書委員会
記事提供：綾辻 綾花

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【広告欄：新聞部＆図書委員会特集】

　記事の最後に来ている広告には、今回新聞部からの提案により開催されるフェアーの広告が載せられている。
　朝読書の強化、そして新聞部からのおススメ図書等々、広告自体は至って普通の企画モノであった。
　――が、そんな広告を目にしながら、ここに二人、一年廊下前でしっかり固まってしまっていた生徒が居たのだ。
「な……な……！」
　二人の内の一人、如月 庚は、普段のクールな印象からは程遠い動揺を周囲へと見せる。
「き、如月さん、これって……」
　隣で一緒に新聞を読んでいた月ヶ瀬 朔夜も、庚と同じく動揺を隠せないでいた。
　なぜ、と言われれば、それはこの広告に張られた一枚の写真が原因であったのだ。

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寝子高新聞・初夏の読書フェアー

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【読書フェアー開催！ この機会に色々な本を読んでみよう！】
　新聞発行の本日より、一週間の読書フェアーを開催いたします。
　図書委員会の協力の下、日替わりで幾つかの文庫の紹介を行いますので、是非手に取り読んでみてください。

【新刊図書とおススメ図書】
　○本日のおススメ図書
　　・恋愛のススメ
　　・アナタと私の恋物語
　　・君を想って百千里

　○新刊図書
　　・寝子島怪奇伝説ファイルⅠ

　やはり、恋愛物とホラー物は切り離せない！
　キャーキャー言いながら恋人同士で読みたい【寝子島怪奇伝説ファイルⅠ】
　甘酸っぱい青春の恋物語の【恋愛のススメ】と【アナタと私の恋物語】
　感動のラストには目が離せない【君を思って百千里】
　どの本も楽しめる事間違いなしですので、気になった人は是非図書室へ！

【朝読書のおススメ】
　朝の一時、学校に来る前や登校中など、ゆっくりとした時間に知識を詰めるのはとても頭にいい事だと思います。
　特に、誰かと一緒に語らいながら読む時間は、相手にとっても有意義な物となるでしょう。
　本を読む、という習慣をつければ、朝以外にも休日の昼下がりにのんびりと外で本を読んでみるのもいいかもしれません。
　楽しんで知識をつける事、その面白さを発見出来るように。

広告主：図書委員会・新聞部

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　この写真を見れば、二人の動揺の意味は一目瞭然である。
　実際の所、庚は事前に修から写真を使用していいかどうか聞かれ、問題ないという返事は確かにしていた。
　だが、まさかこんなどこで撮ったのかも分からない代物を載せられる等とは思っても見なかったのだ。
「……ま、まぁ……なんだ。八神も別に悪気があってやったわけじゃねぇよな。多分」
　とはいえ、別に悪意があって使ったわけではないと庚は判断する。
　トップにこの写真を持ってこれば、見栄えはするのだろう。その為に使ったのなら、その意図は確かに理解出来る。
「で、でも、あれですよ！ こんな写真何時の間に……！」
　落ち着きを取り戻しつつある庚と違い、朔夜は未だその動揺を隠せていない。
　――なぜか、と問われれば、おススメ図書の一覧が全て【恋愛物】で埋まっているからに他ならない。
　広告の内容もそれに合わせるように恋愛関係でほぼ埋まっており、傍から見れば自分達がこう見えてしまっているのか、と言った考えで頭が埋まってしまっているせいで。
「落ち着け、月ヶ瀬。その……だな、俺は別に嫌ってわけじゃない。写真の相手もお前だしな」
　不意に、庚がこんな一言を口にする。
　――が、その言葉を言ってすぐに、庚はしまったと言った顔に切り替わり、即座に朔夜から視線をそらしてしまっていた。
「え……あ、は、はい！ そうですね、私も、その、別に嫌じゃ、ないです……よ？」
　朔夜も朔夜で、この言葉に更に動揺を見せながら、しどろもどろになりながらもどうにかその返事を返す。
　なんとも妙な雰囲気が、二人の間に流れるが、直後、クラスから出てきた他の生徒達が二人の姿を見つけ、好奇と共に二人へと駆け寄る。
　結果、どういう関係だ、などという質問攻めにあいつつも、二人はこのまま昼休み終了まで互いに言い訳を続けていく形となっていた。