【星幽塔】おつかいみんなでできるかな？（茹で蟹編）｜リアクション

【星幽塔】おつかいみんなでできるかな？（茹で蟹編）

　――第五階層。

　活気ある町の中を、鈴野海斗、服部剛、桃川圭花の三人は話しながら進んでいた。開放されたばかりの頃とはあまり変っていないように思えたものの、幾分か混乱が和らいだようにも見える。
　道を行くなかで、圭花は傍らにいる黒銀の竜を見てぽつり、と呟いた。
「それにしても、竜って速いのね」
　途中までは剛の竜に蟹を運んでもらっていた。そのお陰でとても早くついたのである。
「ま、相棒の力はこんな物や無いで。戦闘になれば心強いしな」
　剛は胸を張ってそういうも、実を言うと相棒たる黒銀の竜には名前がまだなかったのである。
（んー、騎士さんに名前つけてもらえへんやろか……。それともシドニウムの兄ちゃんにたのもかなぁ。悩むわぁ）
　色々考えていると、竜が愛らしい声で鳴く。剛は「気にせんでええよ」と優しく声をかけてあげた。
　傍らでは海斗が楽しげに歌を歌っている。たまねぎを彷彿とさせる羽根付き兜の剣士はとても愛らしく、小柄な海斗にはとても似合っていた。
（（かわいいかも））
　と、剛と圭花は心の中で思う。だが、のんびりと歌う海斗は気づいていない。因みに街の人たちにも愛らしいとか思われているが気づいていない。
　そんなこんなで、３人は騎士の詰め所へとやってきた。中の人に話を聞くと、てんびん座のアステリズム、ナイト・オブ・リブラス（以下、リブラスと表記）はここで若手隊員の指導を行っているとの事だった。
　見学の許可を貰うと、３人は訓練所の内部へと通される。まだ１５、６歳といった少年少女たちが武器を使った戦闘を学んでおり、丁度リブラスが武器の使い方を丁寧に指導している所だった。
（オラも稽古つけて欲しいっちゃ。出来るならば手合わせしてみたいっちゃね）
　目を輝かせる海斗と傍らで、剛もまた同じ事を考えているのか、真面目な顔で訓練の様子を見ている。
「二人とも、何を考えてるのか解る気がするわ」
　そんな２人を見、圭花は苦笑しながら眼鏡を正す。その眼差しは、リブラスに注がれており、くすっ、と楽しげに口元が綻ぶ。
（リブラちゃんの中身……意外な事というか、むしろ王道かしら。美少女だと思うのよね。地味な子が眼鏡をとったら……みたいなやつ、昔からあるじゃない）
　圭花は眼鏡の奥で楽しげに目を細め、ふぅ、とため息をついた。

　休み時間となると、すんなり面会する事が出来た。圭花はにっこり笑って「まっするー♪」とご挨拶。
「はぁい、リブラちゃん。元気してた？」
「久方ぶりだな。私はこのとおりだっ」
　リブラスはぐっ、と力瘤を見せるようなポーズ。相変わらず顔も見る事は叶わないが、元気なようだ。
「どうもっ！　竜の運び屋さんです！　お届けもんやで～！」
　剛は方で挨拶のマッスルポーズ。海斗が事情を説明するとリブラスは頷いて箱を受け取った。
「シドニウム殿には、礼を伝えておいて欲しい。これにサインをしておこう」
　リブラスはさらり、とサインを書くと圭花へと手渡す。声色からして、感謝を感じ取ると、圭花は１つ頷きながらも内心でクスッ、と笑った。
（今がチャンスよね？）
　と、再び口を開こうとしたその時。剛がリブラに声をかけた。
「騎士さん、さっきの訓練見とったで。俺も鍛えとるけど独学やし……。鎧着るからには鍛えとかんと、と思うんよ。せやから指南、お願いできんやろか？」
　ココでは、『竜騎士』だし、騎士として、守らなくては……と決意の篭もった眼差しだ。その傍ら、海斗もまた手を上げている。