【星幽塔】おつかいみんなでできるかな？（茹で蟹編）｜リアクション

【星幽塔】おつかいみんなでできるかな？（茹で蟹編）

起：うららかなりや、蟹日和

　――第二階層

　その温泉に現れたのは、何人もの冒険者達だった。彼らは第四階層にいるかに座のアステリズム・シドニウムからのお使いで蟹を温泉で茹でにきたのである。
　恵御納夏朝は蟹漁手伝いだと思ったのかタオルを幾つも持ってきてくれていた。それは足湯する人に貸し出されたり、誤って落ちた人への対策に回されている。
（アヴィケンナ、元気してるかなぁ）
　第二階層のアステリズムである少年の事をなんとなく思いながら、会ったならば蟹を茹でさせて欲しい、と事情を説明するつもりであった。だが、温泉につくまでには会っていない。
（忙しいのかな？）
　少し考察をめぐらせていると、来島アカリがお湯の温度を見、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「蟹をゆでるには温いけど、ここなら足湯に丁度良さそうだ。蟹をゆでるのはあっちの方がいいかな？　結構熱いけど……」
「そうだね。さっそく道具をだそう！」
　アカリと夏朝は協力して道具を出し、他のメンバー共々蟹を茹で始めるのであった。
「結構持ってきたし、重かったな。そーれ、茹でられろー」
　アカリが蟹たちにそう言いながら箱の準備。茹で上がった蟹は丁寧に箱詰めされる予定である。

「結構大きいわね……」
　食に対する関心は無いものの、生態には興味がある大天使天吏がぽつり、と呟きながら蟹を見つめる。手に取ればけっこうずっしりと重く、身が詰まっているのは想像できる。
「茹で蟹～♪　ゆっで蟹～♪」
　鼻歌を歌いながら桜庭円が温泉に籠をつける。中には蟹がたっぷり入っており、見ているだけでお腹がすいてきそうだ。事実、茹で加減をみていた新田亮は円のお腹の音がなるのを聞いていた。
　初めて星幽塔に来た亮は道すがら同じ部活のメンバーである円からあれこれ話を聞きながらココへ来たが、第一階層から第五階層での出来事は、彼にとってわくわくさせる代物だったし、『星の力』についても使い方などが解り益々心が燃えるような感覚がした。
（この目にも、星の力が宿ってるんだったよな。確か盗人の光……。これって、食べごろのタイミングとか、解るといいんだが……）
　そんな事を考えながら蟹を見つめていると、亮もまたお腹がすいてしまうのであった。

　箱から籠に入れなおす作業をしつつ、旅鴉月詠は小さくため息をついた。彼女はふと動く蟹を見つめ、小さく呟く。
　彼女のろっこん『絵空事』は『触れたものを絵として封じる』という効果を持つが、生き物に対しては使用できないのだ。
　けれども、夏朝のろっこんや騎士の光を持つ仲間のお陰で運搬は楽に行えた。困る事は無いな、とのんびりと頷く。
「それにしても、沢山蟹が茹でられてるとお腹がすいてくる……」
　傍らでじゅるり、と涎を拭うのは一緒に作業している本居陽毬。彼女はシドニウムから話を聞いた際、「シドニウムさん良い人～！」とキラキラとした目で彼を見ていたな、とこの時月詠は思い出す。
「一緒に卵も茹でて温泉卵もつけれたりしねぇかな……」
そう言いながら水守流は空いたスペースに卵を入れておく。出来上がりを想像して思わずにやけていると、月詠と陽毬がわずかにニヤニヤした顔をしたので咳払い。

このページにイラストを設定する