【星幽塔】おつかいみんなでできるかな？（茹で蟹編）｜リアクション

【星幽塔】おつかいみんなでできるかな？（茹で蟹編）

転：冬の元気なご挨拶？　その２

　――第三階層。

　そこへ一度訪れた事のある鴻上彰尋は、目の前に広がる緑に安堵した。農場は、すっかり元通りといった雰囲気である。
「いい匂いがするわ」
　傍らでは大天使天吏が穏やかに言い目を細める。心地良い風が吹き、２人の髪を、頬を撫でていく。
（とても、綺麗……）
　天吏は、荒れ果ててしまった姿を記憶している。その際、元の姿はどれだけ美しかったのだろうか、と思いを馳せながら探索していたので、この光景を見る事が出来、胸の中が暖かくなるのをおぼえた。想像以上に瑞々しく、美しく見えたからだ。
　２人は、少し前まで第三階層の大農園がどういった状況か知っていた。その為、青々とした作物や果樹園の様子に正直ほっ、としたのだ。
　彰尋は蟹の入った箱を抱えなおし、辺りを見渡す。脳裏に過ぎったのは、蟹を渡してくれた来島アカリの言葉だった。
「五層ではありがとな。ホント助かったよ。あ、そーだ♪　俺、一層で宿屋やってんだけどさ。この後そこで蟹を食べるつもりなんだ。よかったら来てくれよな。サービスするぜ？」
　にっこり笑って言うアカリの顔を思い出し、思わずくすっ、と笑っていると温厚そうな男性が姿を現した。みずがめ座のアステリズム、リアである。近くには、愛らしい妖精たちが飛んでおり、どうやら一緒に農作業をしていたようだ。
「お久しぶりです。……お元気でしょうか？」
　天吏がそういい、彰尋も合わせて頭を下げる。と、リアも笑顔で出迎える。妖精たちも賑やかに出迎え、二人もほっこりとした気持ちになった。
「お久しぶり。あの時は、色々と迷惑をかけてしまったね。大農園はこのとおり元通りになったけれど、そっちに感けていたからかな？　屋敷の方はまだ少し散らかっているんだ」
『畑仕事で疲れるから、なかなかそっちの作業が進まないんだよね』
　リアが苦笑すれば傍らにいた二足歩行の犬が肩を竦める。そんな様子に思わず彰尋がくすっ、と笑った。

　立ち話もなんだから、と２人はリアの家へと案内された。思ったよりも片付いてはいるが、２人には、当時の爪あとは少し残っているように思えた。
　シドニウムからの贈り物である蟹を届けに来た、と話せばリアは「あぁ、第四階層の……」と懐かしそうに目を細める。
「よかったら、台所を貸して貰えないか？　せっかくだし、この湯で蟹を美味しくしたい」
「勿論。料理してもらえるとは、嬉しいな。野菜は好きに使ってくれてもかまわないよ」
　彰尋の問いかけに、リアが僅かに顔を綻ばせる。彼は台所へと彰尋を早速案内してくれた。
　一方、天吏は野ばらがあった場所を見つめ、咲き誇る様子に瞳を細めていた。リアはそれに気づき提案する。
「もしよかったらだが、野ばらの見える庭で食事をしないか？」
「……はいっ」
　天吏は、いつもより優しい笑顔で頷いた。