【星幽塔】おつかいみんなでできるかな？（茹で蟹編）｜リアクション

【星幽塔】おつかいみんなでできるかな？（茹で蟹編）

　何はともあれ、「お届け物です！」と蟹を渡すことが出来た一行。しばし雑談の後修はそれとなくこんな話を始めた。
「実は、貴方に大切な話があります。この塔には、各階層に『アステリズム』という存在がおり、塔の守り手という重要な役割を担っています。俺たちが体験したあれこれにも関わっています。そして、この第一階層にも、『アステリズム』はいます」
「アステ……リズム？　重要な役割を担う人がいるならば、私としても会っておきたいですね」
　フランチェスカが真面目な顔でそう言えば、修は一呼吸置き、静かに言った。
「この階層のアステリズムは、フランチェスカ、君だ」
「シドニウム殿は、先代のいて座のアステリズムと面識があったようです。名前をジョバンニ・ダ・サジタリオ……つまりは、貴方様のお父上ではありませんか？」
　修の言葉と、月の問いかけに、フランチェスカは僅かに目を見開く。そして、小さくため息をついた。
「お父様は、なにか隠し事をされていたように思います。それがアステリズムの事だったのかもしれませんね」
　なにか思い当たる節があったのだろう。フランチェスカは静かに頷いた。僅かに戸惑いもみえるものの、彼女は冷静に受け止めようとしているようだ。
「父の死後、私の体に痣が浮き出ました。その形が話に聞く父の背中にあった刺青の形と同じに思えました。……もしかしたら、ソレが印だったのかもしれませんね」
　フランチェスカは、凛々しい笑みで４人に告げる。
「私は、その『アステリズム』の１人、……いて座のフランチェスカ、なのですね」
　ゆるりと生まれた自覚。それに修は少し安堵の息をついた。

　悠月が「もう行ったかな」と思い城を訪れると、丁度謁見を終えた修たちとすれ違った。
「いっしょに来ればよかったのに……」
　残念そうに言う美咲紀に、悠月は苦笑した。
「ちょっとゆっくり話したかったからさ。それに、手合わせのお願いもしたかったんだ」
　待たせるのも悪いから、と言えば４人は納得する。
　修はアステリズムについてフランチェスカに語った、と告げれば悠月は静かに頷く。悠月も説明をしようと考えていたのだ。
（だったら、前口上は抜きしよう）
　などと考えていると、トワが悠月の服をひっぱる。
「それじゃ、トワたちは行くデスよ。トワはちょっと月詠さんにお願いしにいくのデース」
　トワはそういって城の外へ駆け出し、修たちも『ねこよろず』へ戻る、と告げた。
　悠月が謁見の間に通されると、フランチェスカは笑顔で出迎えてくれた。悠月は優雅に一礼し、ご挨拶。蟹を届けたついでに「こっちは俺からです」と、バレッタをプレゼント。
　そうしながらも、悠月はフランチェスカの目を見て問う。
「先ほど謁見した八神から聞きました。アステリズムについての話をした、と」
「はい。私が、この階層の守護者、なのですね？」
　フランチェスカの言葉に、悠月は頷く。それは話が早い、と彼は一礼し、僅かに微笑んだ。
「では、他の彼らがどうしていたのか。俺の見て来たものでよければ語りましょう」
　すう、と息を吸い、吟遊詩人のごとく歌い上げる。
　第二階層での水路探検と不思議な少年、第三階層に散らばった６人の少年と、寂しくなってしまった大農園の話。そして、第四階層の滑稽な蟹パニックと飄々とした医者、第五階層の悲しき竜と揺れる天秤の騎士……。
　その全てを、フランチェスカは色々と興味深そうに聞いていた。修たちの説明と悠月の歌で色々と知る事が出来、自覚がさらに強まったようだ。
　歌い上げた悠月が、そこでふと、問いかける。
「さっきの歌にも出したけれど、あの黒い影って、竜が現れる前にも見なかったか？」
「……私は、竜の前には見なかったと思います。あなたは？」
　事情を説明し、傍らのジルベルトにも問う。だが、ジルベルトも見ていないようだ。そして、星の力をいつ受け継いだのか、という話は、全くわからないという。
「推測するならば、父が亡くなって何らかの形で私に受け継がれた、という具合なのではないかと……」
　フランチェスカは修たちから齎された情報からひねり出し、悠月もそうかもしれない、と思うのだった。

　この後、星の力の稽古をつけてもらいたい、と頼む悠月に、フランチェスカは「私で力になれるならば」と笑顔で頷いた。
「この先も、『掴みたい』ものを『掴める』ように、『守りたい物』を『守れる』ように、強くなりたいのです」
　そう真剣に告げる悠月の顔は、凛々しき騎士の顔だった。

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【星幽塔】おつかいみんなでできるかな？（茹で蟹編）

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