【星幽塔】おつかいみんなでできるかな？（茹で蟹編）｜リアクション

【星幽塔】おつかいみんなでできるかな？（茹で蟹編）

　そんな彼らの様子を見、おもわずくすくす笑ってしまったのは、遠野まほろ。彼女は仲間たちがシャウラの泉に行っていた際、留守番をしていた。その為、ここの温泉に来てみたかったようだ。
（温泉って、いいよね。おばあちゃんもおじいちゃんも好きだって言ってた。現実で一緒に行ければいいんだけど……）
　なかなか機会が無いなぁ、とぼんやり考えながらのんびり足湯。こうしているだけで全身が程よく暖まり、疲れが癒されるようだ。
「そういえば、この蟹さん、第四階層で取れたものなんだよね」
「そうだよ。おっきな湖があってそこで取れるって言ってたよ」
　隣で足湯していた陽毬が蟹の茹で加減を見ながら答える。彼女は蟹が沢山食べられると聞いてから積極的に働いていたのだ。
「ほら、『働かざるもの食うべからず』ですから！」（キリッ）
　との事で蟹の運搬から今に至るまで（鼻歌交じりではあるが）手抜きせずがんばっている。
「かに～かに～、おいしいかに～♪」
　美味しい蟹が食べられると思うと嬉しくてたまらない、らしい。そんな様子にまほろは気持ちがわかる気がし、月詠と流は苦笑する。
「それにしても。温泉卵は硫黄の匂いがついたり塩味になるそうだけど、この蟹はどうなのかな？」
「やっぱり、塩味になるのかもなー」
　月詠の興味津々な様子に頷きながら、流も足湯してみる。ほっこりとした心地で瞳を閉じていると、うっかり眠ってしまいそうだ。
「あと……、温泉には蟹が必須！　って書いたツアーのチラシを見たことがあるよ」
　ぽつり、と呟いたまほろの言葉に、ふと我に帰る流達。
「……温泉と蟹……」
「こっそりそのツアー内容にあってるな」
　陽毬と流の言葉に、月詠が「そういう事もある」と頷いた。

　一方、水上桜は蟹をゆでながらぼんやりと足を湯に浸しながら蟹について色々考えていた。
「蟹ってなんでこう……殻はむきにくいのかしらね。皮を剥ぐのは面倒だし、指先を傷つけて、そこに蟹の出汁とか沁みるのを我慢してまで食べたいとは思えないのよね……」
「そういえば」
　眼鏡の曇りをとりつつ相槌を打ったのは桃川圭花。彼女は当初この話を聞いたとき、「竜狩りの英雄を呼び出しといて、おつかいさせるの？」と首をかしげた。
　寝子島にはお人よしだって沢山居る。だが、なんでよりによって自分が……、と内心ぐちぐち言っていた彼女だが、届け先の中に第五階層がある事で目を光らせた。
（あら？　リブラちゃんとこにも届けるのね。……ふーん……）
　そのとき、圭花の脳裏にある事が思い浮かぶ。そして、今はその事で頭が一杯だったりするのだ。
（うふふ、今から楽しみだわ。まっててね、リブラちゃん。正体、拝ませてもらうわよ……っ！）
　楽しげに笑う圭花の様子に、桜は思わず背筋を正す。なにか良からぬ事を企んでいるような彼女の笑みが、妙に怖いのだ。
「あの……先輩……？」
「ん？　なーに？」
　桜の呼びかけに、圭花は普段どうりのクールな笑顔で答える。桜はその様子に内心苦笑する。
「そろそろ茹で上がったかもしれないので、ちょっと見てきますね」
「はーい」
　桜はそういって足湯から上がり、圭花はもうちょっとだけ足湯を楽しむのであった。

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