【星幽塔】おつかいみんなでできるかな？（茹で蟹編）｜リアクション

【星幽塔】おつかいみんなでできるかな？（茹で蟹編）

（いい心地だなぁ）
　アカリが足湯で寛いでいると、亮が声をかけてきた。彼は眼に宿った『盗人の光』で蟹の茹で加減をみれないか試していて、結局勘に頼っていた。
「なぁ、そろそろ良いんじゃないかって思うんだけど……」
「え？　もうそんな時間？」
　アカリは温泉から上がり、亮と共に引き上げに行く。茹で上がったかには真っ赤になり、とても美味しそうな匂いを放っていた。
　シドニウムから借りた手ぬぐいのような布で蟹を拭き、箱に詰める。そして、各階層へ運ぶ分と、みんなで食べる分に分けた。
「それにしても……」
「うん。逃げる奴もたまに居る」
　流と月詠は、まだ生きている蟹を手に網へと入れなおし、茹でる事に。どうやら網へ移している間に逃げ出したらしい。流は３匹、月詠は１匹捕まえており、どちらも美味しそうなほど肥えていた。
　一方、アカリは忘れ物がないかチェックしていると、温泉の浅い部分に光るものを見つけた。不思議に思って手にとって見ると、それはコインである。美しい女性の横顔を囲む、１２星座のマーク。それを不思議そうに見つめていると、夏朝が目を丸くした。
「それ、どうしたの？」
「ここで見つけて……」
　それを聞いた夏朝は、同じものを懐から取り出す。
「僕も、第四階層で見つけたんだ。リブラスさんの話によるとたまに塔の内部で見つかる物で、見つけると何か良い事があるとか言われているんだって」
　それを聞いたアカリは、少しだけ口元を綻ばせる。
「ふふっ、なんか良い事あるといいな」
「あるといいねぇ」
　２人は自然と笑顔になってそういい、頷き合った。

　ほどよく温泉で茹で上がった蟹は、それぞれ届けられるアステリズム分に別けられ、あまった物は第一階層など自分達の拠点へと運ばれる。
「それじゃ、僕たちはアヴィケンナのところに行ってくるね」
　夏朝が言えば、傍らの亮が箱を持って頷く。一方、下へ降りていくのはフランチェスカの元へ向かう面々だ。
　第三階層のリア、第五階層のリブラスの元へも冒険者は向かっていき、その背中を見送りながら円と刀は小さく笑って第四階層へと戻っていった。

「ん？　お前も一緒か？」
　亮は移動しない桜を見、問いかける。と、彼女は苦笑して首を振った。
「私はこのまま、ここでゆっくりしてから帰るつもりです。先輩方、気をつけて行って下さい」
「うん。ちゃんと届けてくるよ」
　夏朝は笑顔で頷き、亮と共にアヴィケンナの元へと向かっていった。
　２人を見送った桜は、１人足湯を続けながらぼんやりとこの後の事を考えた。
（やっぱり、蟹は殻をむくのが億劫だし、手先が痛くなるのよね。ちょっと食べるのが面倒かなぁ）
　この後は蟹ではなく別の物を食べよう、と考えながらも視線は自分達が歩いてきた道にいく。まだまだ続くであろうこの塔の事が気になるのだ。
（あと、どれぐらい上るのだろう……。上った先に、何が待っているのかしら？）
　不安と好奇心が胸に溢れるのを感じながら、桜は僅かに瞳を細めた。懐を探れば、シドニウムから貰ったハンドクリームがある。
「これ、何が使われているんでしょう？　すごくいい匂いがしますが……」
　蓋を開ければ、若草色のクリームが入っている。とろとろしているのに、肌に馴染ませればすぅ、とべたつきがなくなっていく。不思議な感触のするクリームに「効果があるといいのですが」と呟く桜だった。

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