【星幽塔】おつかいみんなでできるかな？（茹で蟹編）｜リアクション

【星幽塔】おつかいみんなでできるかな？（茹で蟹編）

「これ、そんなにいいのか……」
「すごいんだろうな、サプリメント」
　２人は、商品を見、興味深そうに頷きあっていた。
　常闇月は別の商品開発をしようと、いろいろ紙に書きながら色々とアイデアを練る。八神修は「なかなか楽しそうだね」と言いながら差し入れのコーヒーを側においてくれたが、月はそれに気づいていない。
「この蟹の外殻はなかなか強度がありながら軽く、軽量の鎧やプロテクターに丁度よかったみたいですね。新しい形も思案しておきましょう。比較的小さいものはお皿や器にどうでしょう？　けっこういけるかも。しかし問題は棘でしょうか」
　そう言いながら蟹の甲羅に触れ考察する月。椿美咲紀はそんな月にエプロン姿で声をかける。
「月ちゃーん、ごはんできましたよー♪」
「あ、今行きます！」
　月は立ち上がり、そこでやっとコーヒーに気がついた。彼女はそれを持って席を立ち、置いてくれただろう修に礼を言うのであった。
　月が食卓に向かうと、鍋が鎮座していた。蓋を開ければ蟹が鍋の中に鎮座していた。見事なまでに蟹鍋である。遠野まほろも合流し、早速皆で食事タイム。
「いい匂い……（間に合ってよかった）」
「まだまだ寒いですし、鍋にしちゃいました！　さっそく食べましょう♪」
「おっ、いい感じだな。アニさんとオトさんも呼んで来よう。そろそろ客足も落ち着くだろうし……」
　修は早速アニさんとオトさんも呼びに行く。お店は一時中断、みんなで蟹パーティーとなった。
「本当に、いい匂いですね」
　月もまた席につき、さっそく皆で頂きます、と食事開始。アニさん曰く「蟹！？　食べられますよ！」との事だったので獣人コンビも一緒に席に。ほんわかした空気の中、６人静かに蟹と格闘という実に蟹パらしい雰囲気となった。
「美味しい……」
「うん！　まぐぅ、うんまぃ♪　……どうして蟹を食べると無口になるんでしょう？」
「……身を取るのに苦労するからじゃないか？」
　まほろが嬉しそうに呟き、それに続いた美咲紀の一言に修がつっこむ。おもわず笑うアニさんとオトさん。月はそのまったりとした和やかなムードに、僅かに微笑んだ。
「こうして、同じ鍋をつつく、というのは……ほんわかしますね」
「ここは天国なのです。ふふ、ハクサイもいい具合です～」
　幸せだにゃ～、と柔らかい笑顔の美咲紀に修もうんうん、と頷く。お腹も心もまったり暖かくなる。その感触もどこか楽しくて。月は普段よりも柔らかい表情で、ゆっくり呟く。
「こうして皆さんと一緒に居られる事に、私は幸せを感じます」
　すぅ、と目を細め、微笑を浮かべる月。その表情が可愛くて、美咲紀は思わず頭を撫でる。ふんわり恥ずかしそうに赤くなる月の頬。
「かわいい……」
　思わず呟いてほっこりした笑顔を見せるまほろ。その様子も可愛くて美咲紀はまほろの頭もなでなで。
（３人とも可愛いな）
　ソレが、男性陣の率直な意見だった。
（この平穏を、この手で守りたい）
　月は静かに、祈るように心の中で呟いた。懐を探れば、第一階層に戻る途中で拾ったコインがそこにあった。
（たしか、幸運が訪れるとかいう……）
　月は４枚のそれに握り締め、僅かに目を閉じた。

　　第四階層での手伝いを終えた桜庭円は、街角にいたステラと遭遇していた。
「いえーいっ！　シドニウムさんとこでお手伝いしてきたよ！」
「おつかれさまなのー♪」
　ステラは笑顔で労い、円とハイタッチ。お土産とばかりにチョコレートを渡せば、ステラの目が輝く。
「ありがとなの～」
「そういえばステラちゃん、ビール飲んでたよね。お酒入りチョコとかどうなの？」
　思い出したように円が問えば、ステラはにっこりと
「多分大丈夫なの」
　と頷いた。
　２人は空腹を覚え、とりあえず何か食べようと『眠り猫』に足を運ぶ。月詠は新たな客に微笑みかけ、刀たちも「いっしょに楽しもう」と出迎える。平穏な『星幽塔』のとある日は、そうやって暮れていくのであった。

（終）

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