練習！勉強！武者修行！？｜リアクション

練習！勉強！武者修行！？

　
　シンプルなトレーニングウェアですらすれ違う人々が惚れ惚れして釘付けになってしまう長い足で、城山水樹は寝子島スポーツセンターの廊下を歩いていた。
　モデルとして雑誌と専属契約している彼女だが、身分は木天蓼大学社会学部２年生だ。学割が使えるうちに、積極的に通っていきたい。
　水樹はジムの中に入ると、壁面に貼られた鏡を見つめ、息を吐き切りながら体型を確認してみる。
　傍目——と言うよりも素人目には完璧に見えるスレンダーボディだが、自身の持つプロ目線ではアウトだ。
　原因は昨日。
　実家のある参道商店街付近でデートしていた最中に、近所のカフェ『ミルクホール』の子供に試食会に誘われた。楽しく食事をしたのは良いが、恋人も心配するくらいには、食べまくってしまったのだ。
（さてと……、落とし前をつけましょうか）

　水樹は早速ランニングマシンの操作パネルへ指を伸ばした。
　マシンの上で軽快に足を動かしながら、水樹は数年前の、寝子島高校に所属していた頃を思い出す。
　バスケットボール部に入っていた。
　２年生の時に怪我で早い引退を余儀なくされたが、身体を動かすことを辛いと思ったことはない。規則的に息を吐いて、水樹はジムの窓から見える外の景色を楽しんでいた。

　ジムトレーニングを一通りこなすと、水樹は温水プールへ向かった。
　競泳水着に着替えて、冷たい消毒剤にぶるっと震えた後は、軽く身体を伸ばす。
（こうしているとなんだか学生時代に戻った気分）
　ふと表情を綻ばせて、つま先からゆっくり身体をプールに浸ける。まずは平泳ぎから。身体が慣れてきたら隣の競泳専用レーンでバタフライや背泳ぎもしよう——。
　このトレーニングメニューをモデル仲間以外に話すと、負荷の多い激しい運動に思われがちなのだが、水樹にとっては自分らしい無理のないものだった。
　ジムでしっかり身体を伸ばして、カロリーの消費率が高く美肌効果も期待できる水泳をする。アフターケアを怠らなければ身体を美しく整えられる。

　泳ぎきって身体を休める頃には、全身が気怠くなるくらいの疲れが感じられたのだが、気分は実に爽やかだ。
　水樹はロッカールームでタオルで水気を拭き取りながら、身支度用の鏡に映った自分を見つめる。
（どう？　落とし前つけたわよ）
　水樹が自分を磨き続けるのは、モデルとしてのプロ意識だけが理由ではない。鏡の中に恋人の姿を想像して、綺麗に微笑んで見せた。
（だからずっと綺麗な私を見ていてね）
　

このページにイラストを設定する