練習！勉強！武者修行！？｜リアクション

練習！勉強！武者修行！？

　寝子島高校１年佐藤英二。周囲に平凡属性と言われる程平均的な彼の成績は、理数系以外は『無難』だった。
　二学期末試験結果は『国79　数35　英75　理23　社79　家56　音69　美57　体69』と、来る２年生への進級を前に焦る必要もない。
　だが、友人は別である。英二はある特定の女子生徒——、同じ試験で『国19　数21　英47　理0　社81　家59　音79　美29　体81』を叩き出したあの子を心配していた。
　サイコロ機能つけた必勝祈願の鉛筆をあげたくらいじゃ、今後どうにもならないかもしれない。彼女の為に何かしてあげたい。
　
　そんな訳で英二は、『ミルクホール』でのアルバイトの貴重な休憩時間を、事務所での勉強にあてていた。
　あの子と一緒に勉強しようと約束もしているからこそ、モチベーションも上がる。普段は苦手意識から避けがちな理数教科から、率先してページを開いた。
　これまでの出題傾向を読んで、試験に出そうな問題を２〜３問をピックアップし、今後に備えていく。
　これらが確実に解けるようになれば、あの子にも助言出来るようになるだろう。そう思えば集中力も増した。

　さて。高校生ともなると、参考書の問題の難易度も大学受験を見据えた難易度の高いものになっている。数問解いてどっと疲れに襲われた英二は、シャープペンシルをテーブルで休ませた。
　肩を回して緊張をほぐしながら、時計を一瞥して残りの休憩時間を計算する。
（少し余ったら、今のうちから国語の復習もやっておこうかな）
　得意科目を更に勉強すれば、『助言』だけでなく教えられるレベルになるかもしれない。英二が黒い瞳に精悍な色を宿した時、丁度事務所の扉が開いた。
「お、勉強してんの？」
　学校でもアルバイト先でも先輩にあたるエリセイ・ジュラヴリョフが、入室するなり英二の手元を覗き込んで言った。
「頑張ってんねー」
　エリセイはテーブルから参考書を拾い上げて、ぱらぱら捲っては一学年前を懐かしんでいる。
「友達とみんなで勉強する約束をしてるんです。その時に手伝ってあげたいし、先に個人的に始めておこうかと」
「ふーん……」
　英二の表情を一瞥したエリセイは、思い当たるところがあるのか片眉を上げたものの、余計な事は言わなかった。参考書をテーブルの上に戻すと、奥のソファへ向かって歩き出す。
「良いじゃん、しっかりやんな」
　すれ違いざまに背中を叩いてくれた先輩に良い返事を返して、英二はまた真剣に勉強と向き合う。
　それからミルクホールの事務所には、ペンを走らせる音だけが、僅かに響いていた——。

このページにイラストを設定する