【４周年記念】異世界ばっひゅーん｜リアクション

【４周年記念】異世界ばっひゅーん

　専用の鋏で布を切る。手や足、胴体の部位の縁をミシンで繋ぎ合わせて裏返しにした。用意した綿が偏らないように注意して中に詰める。個々の部位を丁寧に縫い合わせて服を着せた。リボンや装飾品を添えて愛らしさを醸し出す。
　完成したウサギは遠野まほろの手で机の上に飾られた。よく見ると周囲にはたくさんの縫い包みが置かれていた。
　その中の一体、赤いリボンを付けた猫の縫い包みの側に行く。手に取ると鈴の澄んだ音がした。黄色いワンピースの胸に抱えて、おはようねこさん、と夢見心地な声を掛ける。

　一気に視界が開けた。
　まほろは空と雲の世界に抱かれた。眠そうな目のまま、ぼんやりと宙にいる。ふわりと舞い上がるスカートは片手で押さえた。

　――異世界なの？
　とろんとした瞳で周辺を窺う。ふっくらとした白い雲が目立つ。
「綿みたいで…とても柔らかそう」
　立ち姿で少し足を動かしてみた。緩やかに浮き上がる。進みたい方向に身体を傾けて試してみた。
　――こんな感じで、飛べばいいんだね。
　白い雲が近づいてきた。表面を触ろうと手を伸ばす。
「…触れるし、柔らかい……乗ることもできる？」
　ふわりと舞い上がって内股で着地した。身体が軽く上下に弾んだ。持っていた猫の縫い包みの脇に手を入れて掲げる。
「ねこさん、雲の上に乗れたよ…ほら、眺めを見て。素敵だね」
　空の世界を一緒に眺める。少し下の方には三人組がいた。
　――桃川さんも、この異世界に来てたんだね。
　桃川圭花と回田はつなが雲の端で見守っている。その中、日暮ねむるが飛び回る。辺りの雲を集めて寝床を作っていた。次第に形になっていく。
　――雲を千切ったり、引っ付けたりできるんだね。
　出来上がった寝床に三人は横になる。安らかな寝顔を見せた。
「……気持ちよさそう」
　まほろは近くに目を向けた。大小の雲が浮かんでいる。
「…少し待っていてね」
　猫の縫い包みを雲に座らせた。
　ねむるの作り方を参考にして雲を集める。十分な大きさを確保した。今度は千切った雲を付け足して厚みを持たせていく。余計な凹凸は掌で平らにした。
　苦労の末に寝床は完成した。
「……寝心地は、どうかな」
　猫の縫い包みを抱えてまほろは横になった。ゆったりとした作りは寝返りを可能にした。微笑みを浮かべてごろごろと左右に転がる。
　ぱたりと動きを止めた。仰向けの姿勢で空を眺める。
「……とっても素敵」
　大きく伸びをして一気に力を抜いた。
　――柔らかさに、包まれて、私は、どこまでも…沈んで……。
　瞼を閉じて間もなく、意識は夢の世界に旅立っていった。