【４周年記念】異世界ばっひゅーん｜リアクション

【４周年記念】異世界ばっひゅーん

　夜の星々を内に秘めた傘を差し、純白のドレスに身を包んだ巫部紫苑が繁華街をゆく。手には二段に重ねられたアイスが握られ、その先端に赤い舌を這わせる。ゆっくりと舐め上げる姿に周囲がざわつく。呆けた顔で立ち止まる男性が続出した。迫り出した大きな胸の膨らみに魅了される者も少なくない。
　紫苑は物色するような目を周囲に向ける。意識した男性が髪に手をやる。高級ブランドの腕時計をさり気なく見せる者もいた。それでいて大人びた雰囲気は軽い拒絶を含んでいる。声を掛ける行為を躊躇わせた。
　――アイスの次は何を食べましょうか。分厚いサーロインもいいですね。
　焼肉屋の前を通り過ぎた。赤い瞳は貪欲に他の店舗に向けられた。
　歩いていくと斜め前方に煉瓦造りの店が見えてきた。何かを思い出したように紫苑が軽く頷いた。
　――パフェが人気の店ですね。いつか全商品を食べたいと思っていました。
　不敵に笑うと足を速めた。

　しかし、店舗に辿り着くことは叶わなかった。一瞬で世界は切り替わったのだ。
「……あら？　何事でしょうか」
　アイスを口にしながら紫苑がゆっくりと落ちていく。真下からの風でスカートが派手に捲れる。黒いストッキングが露わになった。純白に秘められていたガーターベルトまで晒された。

　下の方にいた男性は大いに慌てた。目にした瞬間、顔を赤くして空の彼方に飛んでいった。散り散りになる様子を紫苑は不思議な目で見詰める。
　――今日は変わった人達が多いみたいですね。
　即座にアイスに目を戻す。溶け出した部分を慎重に舌で掬い取る。間に合わないところは人差し指に絡めて口に咥えた。
「危ないところでした」
　安心したところで関心を空に移した。色々な方向に目を向けた。
「お店はないのですね」
　白い雲に目を落とす。
　――ソフトクリームのように見えますね。
　じっと見たまま、雲の上に降りた。乗れたことに驚いた様子は見られない。手で一部を千切って目の前に持ってきた。
　――不思議な雲なので、もしかしたら食べることもできるのでしょうか。
　アイスを口から少し離した。雲の表面に舌を押し当てて、そっと舐める。口をもごもごとさせて元の場所に戻した。
　――無味が雲の味なのでしょうか。
　紫苑は乗っていた雲から飛び降りた。気ままに揺れながら落ちていく。二段のアイスの全てが舐め取られ、最後のコーンの部分も平らげた。
「もう少し店を探してみましょうか」
　赤い舌をぺろりと出して、紫苑は思うままに空を飛んでいった。