【４周年記念】異世界ばっひゅーん｜リアクション

【４周年記念】異世界ばっひゅーん

　青く澄んだ空を見ながら月守輝夜が旧市街で散歩を楽しむ。白いワンピースの襟には波打つようなフリルが付けられていた。それは胸元からスカートの裾まで続いている。
「すっきりと晴れましたね」
　見掛けた猫に微笑み掛ける。関心は薄く、にゃ～、と鳴いてポストの上で丸くなった。
　――こんな気持ちの良い日には、何か良いことが起きるかもしれませんね。
　清々しい表情で角を曲がる。手前で信号待ちする人々の中に青木慎之介の姿を見つけた。赤っぽいパーカーに七分丈のズボンを穿いていた。
　――良いことが突然すぎます。まだ心の準備が出来ていないのに。
「月守じゃん。どっか行くのか」
「あ、はい。行く先は決めていなくて。ただの散歩というか」
「へー、俺と同じだ。デスティニーを感じるよな」
「運命、ですか」
　――この運命には両想いが含まれていますか？
　胸の中で問い掛ける。
「じゃあさ、月守。俺と一緒に散歩しよう」
「慎之介くんがいいなら」
「お、青になった。行こうぜ、月守」
　出された手を輝夜は迷いながらも握った。

　二人は手を繋いだ状態で空の世界にいた。
「おー、なんだここは！？」
「し、しん、慎之介くん！」
「大丈夫だって。俺の手をしっかり握るんだ」
「は、はい」

　慎之介は笑顔を見せた。輝夜の長い黒髪が広がる。ありがとう、という意味を込めてスカートの端を軽く摘まんで微笑んだ。
「こっからどうしようか。散歩の続きって言っても、地面がないし。フリーに動くのは無理っつーか」
「そうですね。あ、三日月です」
「どこに？」
「あそこです」
　輝夜は真下を指差した。白い三日月が見える。
「白いな。雲で出来てんのか？」
「わかりませんが、おかげで自由に動けます」
　緩やかな降下で三日月に近づく。輝夜は下に向かって手を伸ばす。
　指先が触れた瞬間、輝夜のろっこんが発動した。『天人』の効果で自由に飛び回ることが可能となった。
「慎之介くん、私の手をちゃんと握っていてくださいね」
「おう、わかった。凄いな、空をフライだぜ！」
「飛びながら私達の学校や家を探してみましょう」
「それいいな。皆にこの姿を見せてやりたいよな」
「え、それは少し、恥ずかしいというか」
　消え入るような声で言った。慎之介は、どうした？　と顔を近づけてくる。
　――あ、あの、顔が近いです。
　ただ、口をぱくぱくさせた。飛ぶ速さが少し増す。慎之介は風に向かって声を上げた。
「すっげー、気持ちいいー！　そうだよな、月守」
「……私は少し身体が熱いです」
　声は風が攫っていった。

　二人は夕闇が迫る頃、中学校の前に降り立った。気付いた時には、そこにいた。
「帰ってきましたね」
「そうだな。他の連中はどうなったんだろうな」
「私達が無事なのです。たぶん、皆さんも同じだと思います」
　空の世界のことを思い出しているのか。上空を見上げる。
「途中まで俺が送ってやるよ」
「ありがとう」
「別にいいって」
　差し出された手を輝夜は笑顔で握った。
　二人は手を繋いだ。過ぎゆく時間を惜しむかのように、ゆっくりと帰っていった。

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あとがき

担当マスター：黒羽カラス
ファンレターはマスターページから！

四周年記念シナリオ、ついに完成です！

唐突に放り込まれた空の世界。各ＰＣさんが１００文字という限られたアクション内で、自分らしさを十二分に表現していました。
マイペースを貫いて寝ていたり、携帯ゲーム機に夢中になったり、雲で創作意欲を満たしたり。
落ちては浮かんで、また落ちて。気ままに空を漂って、時に空を舞台に踊りに興じ、天上に届くような美声を響かせました。
仲睦まじく落ちていく甘い場面には竜巻が発生して、ちょっぴりビターに。最後は無事に寝子島に帰ることができました。

ギュッと詰め込んだ中身に、あなたはどのような感想を抱くでしょうか。
書いていた私は小さな冒険に胸をウキウキさせました。同じ思いを共有していただけることを信じて、
皆さんの感想を心から待ちたいと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
本編を読んでいない方には「冒険にいってらっしゃい」と心の中で語り掛けて、
あとがきを終わりたいと思います。

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