【つながるギアバトル】

「わぁ、カプセルギアだねぇ！」
　駄菓子屋さんの前をとおりがかった曖浜 瑠樹は、嬉しくなってしまいました。なぜなら瑠樹もまた、先日お父さんが買ってきてくれたカプセルギアを手にしたばかりだったからです。
　お店の前の空間では、あんず！！！＆ゆきのがミリアに挑む、２対１の変則バトルが繰り広げられているところです。
「おお！　もしや、そなたもギアマスターなのか！？」
　こちらもまた嬉しそうなお顔で尋ねたのは、白燕。同い年くらいの瑠樹に期待の眼差しを向けながら、大事そうに抱えたカプセルギアを掲げて言いました。
「うん、そうだよぉー。お父さんが買ってきてくれたんだぁー」
「で、では、私とギアバトルをしないか！？　ちょうど遊んでくれる子を探していたのだ！」
「バトル？　うんっ、喜んでー！」
　もちろん瑠樹だって、大歓迎！　なにしろこれから、思いっきり遊ぼうと思っていたところだったのです。
「うむ！　では始めよう、えーっと。『りゅーき』！」
「へへー、負けないよぉー『白（パイ）』ちゃん！」
「うむっ、遊びといえど勝負事！　私も負けぬぞー！」



　ミリアのカプセルギア、ナッちゃんの特徴的なパーツのひとつは、脚です。ふわふわと浮かびながら移動するフロートタイプレッグは動きにつかみどころがなく、あんず！！！とゆきのはどうにも攻めあぐねています。
「うわーっ、当たんないぞー！？　ミリアすごいなー！」
「あんず……いいから撃って……！（いっしょにがんばろ……！）」
「ふっふっふー、そうでしょー！　ミリアとナッちゃんはすごいんだよー！」
　もっとも、扱いにくいそんなパーツを手足のように扱ってみせる、ミリアの隠れたテクニックがあってこその動きではありました。
　どちらかというと組み立てやメンテが得意なメカニック的ポジションを自称しておりますけれど、そこはおねーさんな彼女のこと。一枚二枚は優に上手だったりするのでした。
「でもうちらだって、負けないもんね！」
　ひらひらひょいっと避けまくるナッちゃんへ、すぽぽぽぽんっと発射されたライラプスのミサイルが集中。ナッちゃんは聴診器型のシールドを構えて、がっつりガード！
　直後にゆらゆらり、まるで幽霊のような動きでライラプスへと接近すると、ナッちゃんは必殺の注射器攻撃を繰り出します。
「おクスリ注射だよー！　あれっ？」
「いまだー、にくきゅうシールドー！」
　ばりばりばり！　ライラプスの左右の肉球には、電気を放出する機能があるのです。左の肉球は電気で頼もしいバリアを作り出し、右の肉球からは、
「しびれろー！」
「わわわ、びりびりだー！？」
　びかびかと瞬く電流攻撃！　本物の雷みたいなエフェクトが、ナッちゃんを絡め取ります。
　不意を突かれたナッちゃんがシビれている隙に……その後ろから、ずごごごごっと近づく影が。
「……いくよ、アルミちゃん……！」
　ゆきのの操る一角うさぎ、アルミちゃんがロケットブースター全開。いざ、突撃！
　あんず！！！のライラプスとのコンビネーションは即興ではありましたけれど、もちろん大親友のふたりです。なにも言わなくたって、タイミングはバッチリでありました。
「よーし、いっけーゆきのー！」
「ゆきのちゃん速いー！？　よけてーナッちゃん！」
「……むり。これで……おわり」
　ずどん！！　アルミちゃん唯一の武器、頭の一本角がナッちゃんの胸元へ突き刺さり、勝負あり！
　アルミちゃんとライラプスが飛び退いた瞬間、ナッちゃんは大きな爆炎を上げて爆発した後、ころんっと転がりました。
「わー、負けちゃったよー！　でも３人いっしょだと、すっごく楽しいねー！」
　美里愛はナッちゃんを拾い上げて、にっこり！
　実のところ、ミリアはあえてナッちゃんの機能のいくつかを封印して、ギリギリのところで負けるよう動いていたのでした。それもこれも、始めたばかりのゆきのに、カプセルギアの楽しさを伝えるため！
「うんっ！　ミリアとふたりもたのしいけど、ゆきのといっしょだと、もっともーっとたのしいなー！」
　にかっと笑うあんずに、こくりとうなずいたゆきの。その晴れやかな顔を見ると、美里愛のそんな想いは確かに、伝わってくれたようです。
「うん……たのしかった、かも。ゆきの、もっと上手くなりたいな……だって伝承に伝わる獰猛なアルミラージを手懐けられるのは、魔女であるゆきのだけだから……ふふふふ」
「？？　よくわかんないけど、ゆきのがカプセルギア好きになってくれて嬉しいなー♪」
「うんうん！」
　脳内妄想もはかどり始めたらしいゆきのを見て、あんずも美里愛も、嬉しそうに笑いました。



　３人が勝負を終えると、近くではもうひとつのギアバトルが始まっていました。
「『ラズちゃん』、わっかビームだぁ～！」
「うっ、がんばれ『サンゴクナイト』！　反撃だ！」
　りゅーきが元気いっぱいに叫ぶと、ほわほわほわわん。肉球から放たれるリング状のビームが広がりながら飛んでいき、白のカプセルギアを包み込んでダメージを与えます。
　りゅーきのラズちゃんはふわふわもこもこな白うさぎのぬいぐるみ型カプセルギアで、ボディには追加装甲という名の桃色の服を着ています。あんずのライラプスにも似た肉球ハンドからは輪っかビームやシールドを発生させ、うさぎレッグは機動力良好。ややスピード寄りのバランスタイプという感じで、攻守ともに安定しています。
　対する白のサンゴクナイトは、まさに三国志に登場する武将をかたどった、なんとも勇ましいカプセルギアです。頑丈そうな鎧には豪華な装飾が施されていて、ぴかぴかと輝いています。右手には長刀のような、いわゆる青龍偃月刀をがっしと握り込み、足先には龍の爪がぎらり！
「よーし、今度はこちらからゆくぞー！」
　サンゴクナイトの左腕に刻まれた青龍がラズちゃんに電撃を浴びせ、続けざまに振り回す青龍偃月刀が、ずばばばばん！　嵐のような斬撃を繰り出します。
「ら、ラピちゃーん！！　じゃなかった、ラズちゃーん！！」
　いつもいっしょのぬいぐるみ、ラピちゃんとラズちゃんはそっくりなもので、ちょっぴり呼び間違えたりもしつつ。ラズちゃんは肉球からまん丸いシールドを生み出して防ぎながら、反撃の糸口を探ります。
　白は思います。誰かといっしょに遊ぶのは、なんて楽しいんだろう！
　りゅーきだって思いました。カプセルギアなら、みんなともっと仲良くなれそうだねぇー！
　なんとか間合いを離したラズちゃんがわっかビームの連射で抑え込み、接近を阻みます。一転して防戦へ回ったサンゴクナイトは、頑丈な鎧で耐えながらじりじりと近づき、隙を見て足を蹴り上げ爪で強襲！
　ふたりの指が、めまぐるしく画面の上を動き回ります。どちらもまだまだ、操縦には慣れていません。それでも最低限の知識や経験があれば、カプセルギアたちはこんなにもイキイキと、まるで本物のロボットのように動いてくれました。
「な、なるほど、これは面白いな……！」
「うんっ、楽しいねぇ！　ラズちゃんをかわいくしてあげるのも楽しいけど、ギアバトルも面白いなぁ……あっ！」
　ぎこちない攻防、けれど充実したひと時はまたたく間に過ぎて、決着の時はやってきます。
　サンゴクナイトの青龍偃月刀が大上段から振り下ろされて、ずばーっ！！　ラズちゃんのふかふかボディに輝く斬撃痕が刻まれて、
『勝負あり！　白さんの勝利です。お見事でした。りゅーきさん、惜しかったですね。次はきっと勝てますよ』
「へへー、ありがとうA.I.C.O.ちゃん。負けちゃったけど、楽しかったねぇ」
「うむ、私の勝ちだー！　でも、そなたとはまたギアバトルしたいな。次も私と、戦ってくれるだろうか……？」
「うんっ、もちろんだよぉ！」
　ふたりはむぎゅっと握手をかわしました。



　ぱち、ぱち、ぱち、ぱち。
　なんだか緩慢な拍手が聞こえて、あんずにゆきの、美里愛、それに瑠樹と白燕も、そちらを振り向きます。
「やってるね。イイ勝負」
　そこには黒髪にオシャレなハットをかぶった少年が、無表情に佇んでおりました。