【運命の出会い！】

　カノンのお兄さんなどは、大いに怪しんだものです。
　なにしろ突然でしたから……差出人不明の手紙といっしょに、どこからかカプセルギアが贈られてきたのは。
『寝子小転入おめでとう。これは私からのプレゼントだ。遅い入学祝いだとでも思って受け取ってくれ』
　手紙には、そんなことが書かれていました。
　カノンはどこかの誰かがくれたカプセルギアを拾い上げて、こらえきれず、にんまりと笑いました。
「おれは気にしないよ。きっと優しい人がくれたんだ！」
　特にカノンの目を惹いたのは、頭にかぶった王冠と、金色の綺麗な剣です。まるで彼の大好きなお話に出てくる伝説の王さまと、伝説の武器のようです。
「よし……決めた。ニャーサー！　今日からきみは、『キングニャーサー』だ！」
　ガチャガチャで引き当てるにしろ、こうして特別な出会いを果たすにしろ。ギアマスターにとって、パートナーとなるカプセルギアとの出会いは、いつもやけに運命的です。
　カプセルギアはどこからやってきて、マスターをどこへ導いていくのか？
　今はまだ、誰にも分かりません。



　分からないので、カノンはとにかく、バトルを楽しむのみ！
　ビーム狙撃銃の狙いすました一発を、キングニャーサーは十字模様があしらわれた大盾で、危なげなく受け止めます。
「スピード重視、ピンポイントでディフェンスを高めたタイプ。クロウト向け、つまりヤリづらいね」
「へへー。いっけー、ニャーサー！」
　『Kanon』が快活に叫ぶと、ニャーサーは聖剣ニャクスカリバーを手に、甲冑をきらりきらめかせながら踏み込みます。
　MAKIYUKIのボナパルト２は接近戦を嫌い、バックステップで間合いを離そうと試みるものの、機動力はニャーサーとほぼ同等。うまく引き離せず、中途半端な距離から放たれたビームを盾で弾くと、ニャーサーは突撃とともに横一閃！　ボナパルト２のボディへ光る斬痕を刻み込みます。
「やった！　どうだ、当たったぞ……うわ！？」
「スキアリ」
　思わず喜んだところへ、すかさず狙撃銃の光弾がヒットして、ダメージは互角に。踏み込みが少々浅かったようです。
　有効射程こそ違えど、二機のコンセプトはよく似ています。どちらも武装をシンプルに絞ることでアタックとスピードを重視していて、ボナパルト２はさらにそれを突き詰めたタイプ。キングニャーサーは盾を装備した分機動力にはほんの少し水をあけているものの、その分ディフェンスが補強されています。
　お互いに有効打が当たらないまま、カプセルギアたちは石畳をあっちへこっちへ、めまぐるしく飛び回ります。
「おっ！　牧くんと互角とは、やるね～君！　今までほとんど負けたことがないんだよ、彼」
　いつの間にか集まっていたギャラリーの子どもたちの間から、ひょいっと勝負を覗き込んだ善場さんが、そんなことを言いました。
　カノンは少しびっくりして、
「そうなのか？　きみ、すごいんだなぁ！」
「……君もね。君たちも。すごくイイな」
「きみたち？」
　勝負の最中ながら、MAKIYUKIがちらりと向こうへ目線を流します。そこでは、キリエとまんじゅう、ネコヤシキとセツナのタッグマッチが白熱するまま、まだまだ続いておりました。
　彼は少しも操縦を乱さないまま、こんなことを言うのです。
「ここしばらくで、どんどん上がってきた気がする。ギアマスターのレベルってやつがさ。それはすごく、イイことなんだ」
　ボナパルト２は赤いマントを翻して反転、ニャーサーの袈裟斬りを避けつつ銃床で一撃。わずかに間合いが離れたところで狙撃銃のトリガーを引き絞ります。
　ニャーサーは光弾をきわどく盾で弾きつつ、ニャクスカリバーを上から振り下ろし、反転して十字を描く連続攻撃を繰り出します。
　Kanonも今や、ひとりのギアマスターです。自分だけのカプセルギアを追求しながら、みんなとギアバトルをして切磋琢磨！　なんて、腕を磨いていったりすることでしょう。
「そこだ、決めろニャーサーっ！！」
　Kanonも、見守るギャラリーの子どもたちも。ギアマスターなら誰もかれもが、感じていたはずです。
　カプセルギアといっしょに、なにかとてつもないところへ飛び込んでいくような……そんな未知の体験が、きっとこの先に待っているのだろうという、不思議な予感を。



「やー、なかなかの名勝負だったねぇ。付け焼き刃にしてはなかなかだったよ、キリエん」
「でも、もっとセラフを上手く動かしたいのです。スミレ、教えやがるですよ！」
　タッグマッチはきわどくも、菫＆キリエタッグの勝利に終わりました。
「ギリギリ負けって感じなのです。でも初めてでその機体をそこまで操るとは、将来有望なのです」
「Really？　トワもがんばって、バディといっしょに強くなるマス！」
　姫はトワの頭をぽむぽむ。負けてもヘコんだり苛立ったりすることは微塵もなく、四人はそれぞれの健闘をたたえ合って、むぎゅっと握手を交わしました。
　カノンと雪人もまた。
「……ちょっと油断、入ってたかな。ヤルじゃん」
「引き分けかぁ。良い勝負だったなー！」
　ふたりのバトルはお互い決め手となる一打が入らないまま、タイムアップとなりました。自信家らしい雪人は、無表情の中にちょっぴり、むっとしたような顔も見えますけれど。カノンの胸には一片のくもりすらなく、ひたすらに晴れやかな気持ちが広がっています。
　キングニャーサーを手に乗せて、にっこり！
「うん。やってみて分かったよ。カプセルギア、楽しいな！　おれ、好きだなこれ！」
「そう？　ヨカッタね。そうなんだよ。楽しいんだよね、カプセルギアはさ」
　そんなふうにわくわくどきどきとしていたもので……ふと。
　雪人が少しだけ眉をひそめたのが、カノンにはなんだか少し、気になりました。
「ねえ……思わないかい」
「なにを？」
　ついと肩をすくめ、真っすぐにカノンを見つめて。彼は、ぽつりと言ったのでした。
「僕らがこんな遊びを手にしたのには、なにか意味があるんじゃないかって。そんなふうに思ったこと、ないかい？」



　自由自在に操縦して駆け巡る、バトルの楽しみも。思い思いの相棒を作り上げる、カスタマイズの楽しみも。
　そして、ちょっぴりの不思議と神秘も帯びて。
　カプセルギアと子どもたちを巡るお話は、まだまだ、始まったばかり！

『携帯戦記カプセルギア』　つづく！！