【楽しんでいこう！】

　ところ変わって、こちらはとある駄菓子屋さん。寝子島にいくつも残るこうした懐かしいお店の前にも、ガチャガチャが置いてありました。
「男子たちが、言ってた……オモチャでしょ？　面倒だね……」
　カプセルギアなる遊びを目の当たりにして、楠木 ゆきのが発したのはそんな言葉でした。
　もちろん、彼女はちょっぴり自分の考えを表すのが苦手なだけの本当はとっても良い子ですから、心の中の本音はこんなカンジです。
（難しそう……ゆきのにもできるかな……？）
「だいじょーぶだいじょーぶ！　うちでもできるくらいカンタンなんだぞー！　なーミリア！」
「うんうん！　ゆきちゃんなら上手にできるよー、ね！　やってみようよー！」
　そこへいくと親友の東条 あんずも渡辺 美里愛も、ゆきののことはちゃあんと分かっておりました。
　ふたりはゆきのともいっしょに遊びたくて、３人仲良くカプセルギアで遊びたくて、ゆきのを誘っているのです。
「ほら、このかんいたんまつっていうので動かすんだ！　カンタンだぞー、ほらほらっ」
　あんずが簡易端末をくいくと動かして見せると、ランドセルを背負ったゴールデンレトリバー型のカプセルギア『ライラプス』が元気いっぱいにぴょんぴょんしながら、ゆきのへ手を振ります。
「ミリアはねー、カプセルギアのお医者さんなんだよ！　すごいでしょー、えっへん！　組み立てるの手伝ったり、壊れちゃったら直してあげるからねー。だから安心してね！」
　美里愛のカプセルギア『ナッちゃん』は白衣を着たナースさんのような形で、右手には大きな注射器がくっついています。ナースだからナッちゃんです。
　おどけて、ナッちゃんが注射器をライラプスのお尻へぷすっと刺すような仕草をすると、レトリバーくんはノリ良くＯＨ！　っと跳び上がってみせました。
　思わずほっこり、ゆきのの顔からは心配そうな表情が消えて、代わりに瞳には期待の色が満ち始めます。
「……つまらなかったら……やめるからね？（うん、ゆきのもやってみる……！）」
「「やったあー！！」」
　ゆきのがぽそりと小さく言うと、あんずと美里愛は飛び跳ねて大喜び！
　さて、そうと決まればさっそくガチャガチャで、ゆきのの相棒をゲットしなければなりません。
「何が出るかな～、何が出るかな～！」
「それはガチャガチャまかせだよー！」
　ふたりが祈願の踊り（？）を踊る中、ガチャガチャっポン！
　ころりと転がり出てきたカプセルを、ゆきのが期待半分、不安半分でおっかなびっくり開けてみますと、
「……うさぎ？　角が生えてる……アルミラージ、っていうみたい」
「おーっ、かっこいいんだぞー！」
　ひょっこり出てきたのは、頭ににょっきり一本角を生やした、黒いうさぎ型カプセルギアでした。角はなんとも力強くて、頼もしい武器になってくれそうです。
　ミリアもひょいっとそれを覗き込んで、
「わーほんとだー、かわいいねー！　うさぎさんかー……あ！　そーだ！」
　なかなか可愛らしくて、このままでも悪くはありませんけれど、パーツを付け替えてカスタマイズできるのがカプセルギアの醍醐味です。
　美里愛が、はいっ！　と手渡したのは、ボディパーツでした。しゅっとしたスレンダーなロボット型で、背中には大きなターボロケットがででんっとくっついています。
「うさぎさんって１羽２羽って数えるよね、だから羽があるみたいに飛べたら、もーっと可愛いよね！　だからこれ、あげるねー！」
「羽じゃなくて、ロボだけど……」
「あっ、ならうちもうちも！　いらな……じゃなくて使ってないパーツ、ゆきのにあげるー！」
　はしゃぐあんずが何かを取り出して、ゆきののてのひらへぽろぽろっと落としました。
　角うさぎ、アルミラージのもともとのボディや手足はどちらかというとリアル志向なデザインですけれど、あんずがくれたのは、デフォルメされた可愛い系デザインなうさぎパーツたちでした。アルミラージの頭には、こちらのほうが似合いそうです。
「ふたりとも……くれるの？　いらないなら……もらっとくけど（ありがとう……！）」
　その後、カプセルギアのお医者さんを名乗る美里愛に教えてもらってパーツをかちゃかちゃと付け替え、ゆきののカプセルギア、アルミラージの『アルミちゃん』はひとまず完成！　まだまだ改良の余地アリなので、ちゃん付けです。
　手のひらに乗せた自分のカプセルギアに、ゆきのは満足そうな笑みを浮かべます。そのうちそこへ、あんずのレトリバーくんと美里愛のナースさんがぴょいんっと乗っかって、握手あくしゅ。
「よーし、できたなー！　それじゃさっそく、戦ってみるぞー！　うちとゆきのＶＳミリアで！」
「え、２体１……？　ミリア、いいの……？」
「オッケーだよー！　ふふふー、ミリアはすーっごく強いからねー！　さーっ、ふたりまとめてかかってこーい！」
　美里愛はスマホをしゅぱーんとやけにカッコよく操作して、ふたりへとギアバトルを申し込みます。
「お、おてやわらかに……」
「よーし、いっくぞー！」
『ギアバトルを開始します。健闘を祈ります』
　A.I.C.O.の声を合図に、あんずとゆきのも簡易端末をしゅばっと構えて、バトルスタート！
　ばりばりの初心者なもので良く分かりませんけれど、ゆきのはやみくもに高鳴ってゆく胸の鼓動に、ふるると肩を震わせました。



　お仕事が忙しい父親とあまり会えないことは、もちろん寂しくはあります。それを父が気にしていることも、薄々感じてはいるのです。
　だからこそ、煌 白燕は思うのです。
（忙しい中、父上が私のためにと買ってくださったのだ。精いっぱい楽しまねば！）
　白燕のまわりにはいつも、母やメイドさんたち、それに教育係の青年だっているもので、寂しくはありません。けれど律儀な白燕は、父の気配りを無駄にしたくはありませんでした。
　それに、
（ほかの子たちと遊べるのは……嬉しいな）
　父が買ってくれたカプセルギアを連れて、ふと訪れた駄菓子屋さんにて。目の前では今、３人の女の子たちが楽しそうに対戦に興じています。
「ミサイル発射ぁー！！」
　ギアマスターネーム、『あんず！！！』と気合の入った彼女の操るライラプスが、背中に背負ったランドセルから小型ミサイルを、すぽぽぽんっ！
「わー、あぶない！　シールドで防御だよー！」
　『ミリア』はナッちゃんに聴診器型のシールドを掲げさせて、ミサイルをばっちりガード。白燕の目に、赤い炎がぱっ、ぱっ！　と花咲きます。
「あんずが撃ってる間に……アルミちゃん、いくよ……！」
　ロケットブースター点火！　『ゆきの』のアルミちゃんが真っ赤な炎を引きながら、角をぎらりときらめかせて突撃！
「おーっ、ゆきの上手いんだぞー！」
「べつに、たいしたことない……（ほんと？　やった……！）」
「まだまだー、ミリアおねーさんは負けないよー！」
　思わず、手に力がこもります。なんて、なんて楽しそうなんでしょう……！
　３人とも、激しいバトルを繰り広げながら、なんとも明るい笑顔です。きらきらと輝いているのです。
「これが、カプセルギアか……！」
　自分も、やってみたい！
　白燕が大いに遊ぶことが、きっと尊敬する父の思いに応えることにもなるのでしょう。３か国語をしゃべれる才女な白燕だって、まだまだ小学４年生の子どもなのですから。
「……よしっ！　私も思いっきり、楽しむぞ！」