【トレードしてみる？】

　ふたたび善場模型店。
　一台のガチャガチャの前で、男の子が張り付くようにしてハンドルを回しておりました。
「よーし、次こそっ。来い来い来い……」
　ガチャガチャ、ころんっ！
「あーっ、また違うヤツー！」
　むむむむむ、と整った眉をへにょりと曲げたのは、双葉 由貴。
　どうやら欲しいパーツかカプセルギアがあるようですが、そこはなにが出るか分からないのがガチャガチャです。どうやらお目当てはまだ出てきてくれないようです。
　なんだか必死なのが恥ずかしいのか、わざわざほかの子たちがいなくなったタイミングを見計らって１００円を投入すると、きゅっと両手を組んでお祈りポーズ！
「つ、次次っ。次はきっと出るはず、来い来い、来いってば……！」
「あれれー、由貴君だ！　由貴君もカプセルギアするんだねー！」
「うわーーーっ！？」
　びっくん！　突然肩をぽむっとされて、由貴は思わず跳ねてガチャガチャに抱き着きました。
「れ……玲音ー！？」
「ボクも持ってるんだよだよー！　ほらっ」
　にっこり笑顔、自慢げにマイ・カプセルギアを見せてくれたのは、柚瀬 玲音でした。遊びには積極的なアクティブガールな彼女のこと、流行りのオモチャだってバッチリ網羅しておりました。
「今ね、Ze Petさんでガチャガチャしてきたところだよー。今日はいろんなところでガチャガチャして、たくさんパーツを集めるんだよ、だよ！　あれっ、由貴君どーしたの？」
　そんないつだって元気いっぱいな玲音の笑顔に、由貴はと言いますと……ぼわっ！　なんだかお顔を赤くしまして、わたわたわた。
「べ……別に、カッコイイから俺も欲しいなーとか、俺も自分のロボ作りたいからとかっ、そんなんじゃないんだからな！　みっみんなと遊ぶためにっ、必要だから！　だから欲しいだけなんだからな！」
「？？　そっか、由貴君欲しいカプセルギアがあるんだねー」
「ちっちちちちち違うから！　そういうんじゃないから！」
　由貴特有のツンデレチックなリアクションに、玲音はあっけらかんと言いました。由貴のお顔はますます真っ赤です。
「じゃあじゃあ、ガチャガチャしてみようよー！　ボクもいっしょにお祈りするんだよ！　だよ！」
「そ、そんなことしてないし……！　するけどさ、ガチャ！」
　というわけでガチャガチャ祈願２人態勢にて、再チャレンジ！　玲音は猫っぽいポーズで踊りを披露し、由貴は固く両手を握ります。
「由貴君の欲しいの、出てこーい！　出てこーい！」
「こ、来い、来い、来い……今度こそー！」
　１００円入れて、ガチャガチャ。っぽん！
　ころんと転がり出たカプセルのなかには、
「……！！　で、出た……！　やっと来た！」
「おおー！　やったね！　ね！」
　魔法使いっぽい帽子に杖を手にしたカプセルギアがありました。お祈り成功！



「ところで、これ動かせるって聞いたんだけど……ねえ、どうやって動かすのー？」
　お目当てが出てほくほく、嬉しそうな由貴のかたわら。玲音は自分のカプセルギアを掲げつつ、店主の善場おじさんへ尋ねました。
「カプセルギアの操縦かい？　スマートフォンは持ってるかな？」
「あ、スマホがいるのー？　残念だなー、ボク持ってないんだよー……」
「いやいや、大丈夫。それならこの、簡易端末っていうものがあるからね」
　しゅんとした玲音へ優しく笑いかけながら、善場さんは端末をひとつ持ってきてくれました。お値段を聞いてみると、玲音にも問題なく買えてしまうお手頃価格です。
「ほしい！　ほしいんだよだよー！」
「はは、じゃあ簡易端末ひとつだね」
　端末ゲット！　善場さんに教えてもらいながら、まずはギアマスターネームを決定します。
『……ギアマスターネームが登録されました。私はカプセルギアサポートオペレーションシステム、A.I.C.O.です。よろしく、レイン』
「わわわ！　しゃべったんだよー！？」
「うん。あとはA.I.C.O.の指示に従って登録すれば、すぐにカプセルギアを操縦できるよ」
　カプセルギア専用アプリ『A.I.C.O.』は、玲音がちょっと首をひねってしまうくらいに良く出来ていて、なんだか不思議なアプリです。なにしろ話しかけてみれば、ちょっとした会話までできてしまうくらいなのですから。
「すごいねー。これって、声を変えたり、しゃべり方を変えたりもできたりするかな？　お友だち感覚になるように変えてみたいんだよー」
『申し訳ありません。現在のところ、私にそういった機能は搭載されていません。でも、ユーザーのご要望として受け取っておきますね。私がバージョンアップされれば、そのようなプラグインが組み込まれる可能性は否定できませんから』
「ほんと？　楽しみなんだよだよー！」
　ちょっとした疑問にも、A.I.C.O.はなかなか柔軟な答えを返してくれて、玲音はわくわくとしてしまいます。
　そんなA.I.C.O.の音声ガイドに従って、今度はカプセルギアの登録です。
「それが玲音のカプセルギア？　なんか変わってるな……」
　浮かれモードもひと段落したのか、さっそくA.I.C.O.に登録を済ませた由貴が、魔法使い型ギアを試運転がてらに言いました。
「そうなんだよ、みんなに見せたら統一感ないねーって言われちゃった。もっと見た目も頑張りたいんだよだよー、どうしたらいいかな？」
　簡易端末のカメラ機能で覗く玲音のカプセルギアは、頭が可愛らしい猫型で、足はぴょうんぴょんウサギ型。背中にはロケットブースターを背負い、手には不思議な形の銃といかめしい盾を装備しています。もちろん、カスタマイズはカプセルギアの醍醐味……とはいえ、確かにちょっぴり節操がないかもしれません。
　善場さんがそれを眺めて、ふうむと腕組みしつつ、
「欲しいパーツが出るまでガチャガチャをするのももちろん手だけど、限度ってものがあるからね。君たちのおこづかいだって、大切に使わなきゃあいけないよ。それより、こんな時にはね、トレードをオススメしてるんだよ」
「「とれーど？」」
「A.I.C.O.に登録できるカプセルギアは一体だけだからね。君たちも、使ってないパーツがいくつかあるんじゃないかな？　そういうのをね、ほかの子と交換し合えばいいんだよ」
　確かに、玲音は朝からいくつかお店を回ってガチャガチャをしてきましたし、由貴も本命が当たるまでに出てきたパーツがいくつもありました。そういった、自分には必要ない、かつ相手に必要なパーツをトレードし合えば、みんなが無理なく欲しいパーツを手に入れられるという寸法です。
　由貴と玲音は顔を見合わせて、
「ていうか別に、そこまで必死にガチャしてないけどな……！　みんなと遊ぶためだし、勘違いするなよな！　で、これとこれ、こっちのこれと、あとはこれなんかはトレードできるけど」
「わー、ありがとなんだよだよー！　じゃあボクのこのパーツと、由貴君のこれを……あっ、こっちのこれもいいなー！」
　見れば善場模型店のあちこちでも、ちらほらとパーツ交換をしている子どもたちがおりました。きっとほかのお店でも、同じような光景が見られることでしょう。
　こんなふうにしてカプセルギアは、子どもたちに距離を縮めるきっかけを提供してくれるのでした。



　わあっと声が上がって、由貴と玲音は交換交渉のために広げたパーツたちから顔を上げました。
「おっ、誰かギアバトルを始めたみたいだね。君たちもバトルするなら、参考のために見ておいたらどうかな」
　子どもたちでごった返す模型店の店先を覗いてみると、
「なんの、まだまだ。野球はツーアウトからだぜ？」
「へえ、言うじゃない。でも、気合だけじゃ勝てないわよ！」
　岩木 拓磨と仙藤 蒼。中学生ふたりが、なかなかに激しいバトルを繰り広げておりました。