Good Morning and Good Day｜リアクション

Good Morning and Good Day

●制服の袖を通すのも
　半分までの水が入ったコップをさして、半分もあると言う人もあれば、半分しかないと言うひともいる。
　そんなカテゴライズを求められたなら、仙藤紫は『どちらでも』と言えるタイプだ。
　高校三年の、残り一ヶ月弱。
　一ヶ月しか無いし、一ヶ月もある。
　少なくとも朝は来るし、制服には袖を通すものだ。
　そして今日もまた、目覚まし時計のベルがなる。
「うーん……」
　唸るような声をあげ、ベッドの中で回る。
　うつ伏せの姿勢からぐいぐいと身体を動かして、うずくまるような姿勢にまで持って行く。
　ここからがキツいのだが、思い切って布団をはいでしまわないといけない。いつまでも布団の中で暮らすわけにも行かないのだ。
　布団をはぐと冷たい空気が身体を包んだ。
　カーテンの裾をつかんで、引っ張るように開く。
　外はいまだ朝靄のなかだ。
　背伸びをして、身体をなじませていく。
　さて、朝だ。朝がやってきた。
　上着を羽織って、紫はベッドを下りた。

　紫の家は一戸建てだ。家族で済んでいる。
　実家住まいの宿命というべきか、親兄弟の邪魔はあまりすべきではない。
　遅くまでテレビゲームに熱中していたであろう妹をたたき起こすなどもってのほかである。
　なによりめんどい。放って置いても母が布団をひっぺがしてくれよう。
　……などと思っていると、玄関で靴べらを持った父を見かけた。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
　振り返るも、それだけだ。朝の家族の会話なんてものは、大体こんなもんである。
「いってらっしゃい」
「ああ、いってくる」
　自分より早く起きる人間全てが偉大だとまでは言わないが、少なくとも紫よりも早く起きて仕事に行く父は偉大だ。
　そんな父に付き合って早く起きて朝食の支度を済ませる母は、同じくらいに偉大である。
　ダイニングに行けば、スクランブルエッグとウィンナー、それにポテトサラダが更に盛られている。
　一足遅れてやってきた母が、紫を見計らったかのようにトーストを出してきた。
　コーヒーは自分で入れる。というか、砂糖やミルクの分量は自分で決めたい。
　テレビを見ながらぼーっと食べるご飯も、紫にとってはいつも通りのものである。
　違いと言えば和食か朝食かといったところだが、このありがたさに気づくのは彼女が一人暮らしを始めた後だろう。
　まだ、半分大人の半分子供。高校三年生である。
　暫くトーストをもぐもぐやっていると、母が妹を起こしてこいと言う。
　折角スルーしたのに。などとは思うものの、母親に逆らって得することなどない。
　食事を軽く終え、紫は階段を上った。

　もろもろの支度をおえ、妹もたたき起こし、家の前にとめた自転車にまたがる。
　こんな時間があと何回続くだろう。
　紫はふとそんなことを考えた。
　新しい生活がすぐ目の前まで来ている。
　それにもすぐに慣れてしまうのだろうか。
　中学校から高校へ上がった時のように。
　とはいえ。
　朝は平等にやってくる。紫はペダルをこぎ出した。