寝子島グレートレース｜リアクション

寝子島グレートレース

　旧市街の漁港で海を背にした新田亮がストレッチを行っていた。上下のジャージは伸縮性に優れていて素早い動きを可能にした。すでに額には薄っすらと汗が滲んでいる。
「これくらいでいいか」
　口にしつつ、肩や腕を入念に回す。
　――俺は決めたんだ。寝子島を走って一周すると。
　ようやく動きが止まる。ぼさぼさの頭を片手で掻いて汗を飛ばす。
「行くか」
　呼吸を整えて亮はゆっくりと走り始めた。
　視界が開けたところで足を止める。島全体を見渡すように顔を動かした。
　――こうやって眺めると大きく見える。今の俺なら、日々の鍛錬を欠かさない俺ならば、この試練を乗り越えられるはずだ。
　自信に満ちた顔で走り出す。歩道にはたくさんの人が歩いていた。小柄な身体を活かして隙間を駆け抜けた。
　寝子電本線が見えてきた。通り掛かった電車にそれとなく目がいく。
　――挑戦が失敗した時は電車で、いや、それは俺が許さない。罰として徒歩で帰ろう。少しでも身体を鍛えたいからな。
　迷いは消え去り、力強い走りに変わった。