寝子島グレートレース｜リアクション

寝子島グレートレース

　星ヶ丘寮の邸宅前、八神修が準備運動に励んでいた。動作の度にランニングウェアが切れの良い音を立てる。傍には柴犬のカーキーが控えていた。若犬へと育ち、愛らしさに凛々しさが加わった。いつでも走り出せる状態で先の方を見据えている。
　修はアキレス腱を伸ばしながらカーキーに目を移す。
「今日はちょっと遠くまで行ってみようと思うんだ。一緒に来てくれるかい？」
　カーキーは主人を見上げて、ワン、と短く返した。
「ありがとう」
　笑顔で準備運動を終えると斜めに取り付けた背中のウエストポーチを外した。早速、中身の確認に入る。最低限の水、小銭入れ、各種の飴が収まっていた。
「携帯は必携だな」
　最後にスニーカーの紐を結び直す。自然体の姿で立ち、瞬時に強い視線を前方に向けた。
　――俺は何処まで行けるのだろう。この前の記録、3.5kmは越えたい。
　カーキーの催促する声に修は、わかったよ、と朗らかに笑って頭を撫でた。
「走れば答えは出る。カーキー、行くぞ！」
　リード線を握って修はカーキーと一緒に走り出した。

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