鬼は外、福は内、寝子島の節分祭｜リアクション

鬼は外、福は内、寝子島の節分祭

　そんな中、混沌となった祭りにうんうんと肯きかけながら、丁寧に参拝する姿が二つあった。

　片方の少年の名は、森蓮。人生の使命を奉仕と信じ、一途な献身することを旨とした善人たる少年は、この祭の中にあってもまずは参拝を、としずしずと境内の奥へと向かっていたのだった。

　他方同じようなタイミングで参拝を行っていた猫島寝太郎はというと、手水舎の冷たい水に「ひー」とか小さな悲鳴を上げたりしつつ、丁寧に参拝の手順をきちんとふんでお三夜様へお参りしていく。家族の無病息災と、バレンタインを間近に控えた少年らしいお願いをしていたせいだろうか。大変丁寧にお参りをしているようだった。
　ひとしきり作法にのっとってお参りをした二人が各々で向かった先は、奇しくも同じ場所、境内の人混みの中ほどだった。
　二人ともが、ここなら、豆まき役と鬼役の競い合いが、程よく楽しめそうだと踏んだようで。

「節分の鬼で思い出しましたが、オニごっこにいろんな種類があるのはご存知ですか」
　たまさか横にいた、同じ学校の少年に声をかける蓮。
「え、そうなの？」
　声をかけられた寝太郎の方も、意外だという声で、応じていた。ちょうど鬼役であるサンマさんに「わ～、サンマさんだ～」と手を振っていたところだったから、中途半端に片手が掲げられている。
　「たとえばタッチされるとオニが増えていく『増やしオニ』、目を閉じている間に先生がオニを指名し、誰がオニか分からない状態でオニごっこする『スリルオニ』、オニも子も片足で跳ぶ『ケンケンオニ』なんかがあります。ケンケンオニはずっと同じ足で跳ぶと疲れるので、足替え所や休憩所を用意するといいですね」

「へぇ……おっと、福は内ー、だよー……ほかにもあるのかな？」
　飛んできた豆を受け止めると、口上とともに投げ返した寝太郎は、顔を森の方へ向けて問いかける。
「増やしオニでオニの動きを制限した、ムーンウォークで追う『マイケルおに』、横向きにしか歩けない『カニおに』、両足で跳ぶ『キョンシーおに』、足が使えず這ったり横向きに転がって移動する『へびおに』なんかもありますね。へびおにはミニバスケットコートの広さならへび5人以上で始めると面白いです」

「よく知ってるんだねぇ」
　そう言って寝太郎が感心した目を向けると、森は照れたように笑う。
「少しだけ興味をもって、調べてみたことがあるんです。ほかで面白いのですと、『ドラキュラのオニごっこ』も増やしオニの一種です。ドラキュラのオニごっこは、体育館をA、ドラキュラの館、Bに3等分します。AとBの間にあるドラキュラの館にはドラキュラがいます。ドラキュラでない子は「始め」の合図で、ドラキュラにタッチされないようにAからBへ走ります。ドラキュラにタッチされると、その子もドラキュラになります。制限時間以内にA・B間を3往復できれば子の勝ちです。カウントダウンがすると緊迫感が出ますね」

　さらさらと話し続ける森に、「へー、うん、それはなんだかとっても楽しそうだねぇ」と応じる寝太郎。
　そのままに視線を境内の騒ぎに向けて、肯いて見せる。
「これもまた、一種の鬼ごっこといえるのかもしれないねぇ。ちょっとハロウィンみたいで楽しいし――あ、そうだ。暇だったたら一緒に屋台回りや、振る舞いのお汁粉をいただきにいかない？　今日はひとりで来ちゃったから、同行してくれる人を探してたんだ」
「私はお肉はあまり食べられないので、お付き合いできるものは少ないと思いますが、よろしいんですか？」
　森が問いかけると、寝太郎は肯く。
「うん、いいよ～。できればほかにも面白い話、いろいろ聞かせてもらえたら、嬉しいかなぁ」
「そうですね……じゃあこういうのはどうでしょう」
　二人は境内の喧噪を背景にしながら、雑談を交わしつつ、屋台の方へと向かっていった。