鬼は外、福は内、寝子島の節分祭｜リアクション

鬼は外、福は内、寝子島の節分祭

　戦いあう面々は他にもいた。

　夏神零。
　神社同士の縁で節分祭の賑やかしを頼まれ、鬼役として参加した彼は、満月の率いる豆まき軍団の弾幕をいなしつつ、あちらこちらを逃げ回っていた。
　男性ではあるが、その恰好は麗しき鬼女。
　鬼の角を模したカチューシャをつけ、白拍子のような衣装を軽やかに着こなし能で使われるような般若の面を側頭に被っている。

「こんな鬼でよいものか……？」
　若干己の恰好に疑問を抱きながらも、目立つがゆえに追われること自体は楽しんでいる零。投げつけられる豆を難なく交わし、あるいは捕まえ、避けまわっている。
「投擲回避の良い修行になりそうだが……流石にやられっぱなしの鬼というのも面白くなかろう？」
　いやあたってやれよ。幼子の豆をすべて受けきり、一升マスに返して頭を撫でている様に、観客の一部かから心のツッコミが入る。

　そんな彼の感覚の外から、尋常でない勢いの豆が数発襲い掛かってきた。
「！？　――この弾道、闇か！」
　同様に賑やかしとして依頼をされたらしい冬樹闇の指弾で飛ばされたらしい豆をからくもよけて、零は叫ぶ。視線の先には、自前の巫女服を着こなした闇の姿があった。
　どうも最初は自らの能力を十全に発揮してはいけないのではないかと遠慮がちであったようで気配を感じなかったのだが、同類――零を狙えばいいのかと納得したようで、一途にこちらへと向かってくる。

「小癪な！」
　放つ気配すら見せず――真実、無意識に放ったらしい指弾投擲の豆を、軽く見切って指でつかむと、闇が嬉しそうに微笑んだ。
「流石……零……指で掴んで、止めるとか……」
　口の動きだけで、そう読める。そして、さらに不吉な動きが続いた。「次……跳弾、いく」と読めたママに、放たれた数発の豆が、零に襲い掛かってきた。
　複雑に周りの池面、木、柱、壁障害物からの跳ね返り。更に変化球からの空間弾道。
「豆……足りるかな……」
　心配すべきはそこではなかろう！

　どうやら闇にあらかじめ言い含められていたらしい。
　周囲を数人の豆まき役に囲まれ全方位から合わせて狙われていた。佐藤瀬莉や、曖浜瑠樹、まゆ先生などの小さな子どもを含めた一団が、めいめいに投げつけてくる。
　それでもある豆を避け、ある豆をはじき落とし、零は本来の鬼役の役割をどこかに忘れたかのように、抗い続ける。
「恐ろしい弾数、いや豆数だが良い運動になるのう――おや先生も。容赦ないのう……おっと！？」
　飄々と笑う零。その背後から襲い掛かってきた闇の豆も、また避けていく。

「零……あの数を避けるって……流石」
　まだ続く零の抵抗のすごさを感じ、闇はほぅ、とため息をついた。
　改めて簡単にあの小さな豆を指で挟み止めてしまう姿を思い返すと、零は己と同じか、あるいはそれ以上に常に精進しているのだろうと検討がついてしまう。
　いつか超えられてしまうかもしれない――改めてそう感じる。
「背を追いかける……その方が良いのかな……」
常に技を競い追いかけられるよりも……追いかけるほうが楽しいのかもしれない。無意識の指弾を何度も放ちながら、闇は感慨深く避け続ける零の姿を眺めていた。

　この光景は、零が「当たってもよいのではないか……？」とイベントの趣旨を思い出すまで続いたようだった。