鬼は外、福は内、寝子島の節分祭｜リアクション

鬼は外、福は内、寝子島の節分祭

「節分のお祭りをやるってことで来てみたけど、さすがに寝子島。仮装なんてするのね」

　そう言いつつ本人もしっかりと仮装を施しているのは、桃川圭花。
　怪しげな坊主の貸衣装屋さんで衣装を物色したところ、某だっちゃもどきの虎柄のビキニを勧められたらしい。
「却下却下。今日節分でしょ、暦の上では冬でしょ。冬に水着なんて一度で十分だから！」
「一度着たなら二度着るも同じじゃろ」
「却下ってば～！」
　そんなやりとりの果て、タイトな赤いワンピースと角のカチューシャに落ち着いたようだった。寒いから防寒になるようなものも欲しいといったところ、赤い色のニーハイとフェイクファーのマフラーが出てきて、なんなんだこの衣装屋と、ほんの少しだけ思ってしまったのは内緒である。

「まぁ、でも、あれよね」
　――カッコはよし。祭りに参加する資格は十分ってものよね。
　本来は別に仮装しなくてもよいわけだが、そこには気づかない。
「出店は何が出てるかなっと……うん？」
　ふと気づくと、一升ますを持ったちびっこ集団達が、周りを囲んでいた。
「ねぇあなたたち？　なんで豆握り締めて私のほう見てるの？　そりゃ私は鬼コスしてるけど……」
　言って、ふと遠くを見て納得する。鬼役は大体鬼のコスプレをし、参拝客は普通の恰好をしていた。

「あ、なるほど。いや待ちなさい！　話せば分かるわ。　どうしてもぶつけるっていうなら……まずそこに並んで。一人づつよ！　人事を尽くして神前に立った受験生のよーな気持ちで。　そう、私を賽銭箱だと思って丁寧にトスしなさい！」
　先手を打って子供らを整列させると、前へ倣え！　右向けみぎ！　よし、ゆっくり投げるのよ！　となんともお祭り感のない方法でさばいていく。子供たちのほうはといえば、はてこれでよかったのだろうかという顔をしているが――
「……ふふ。よくできました。　小学生？　ってことは１１？　１２？　素直で可愛いじゃない」
　と本人はご満悦だった。

「あら、こんなところにも鬼がいたのね！」
　そうこうしているうちに、豆まき部隊の主要な一人――まゆ先生が一団の動きに気付いて近づいてきた。
「あら、え、まゆ先生！？」
　はて、豆まき役は年男と年女だけだったのじゃないかしら。それも子供の――ああ。
「そっか、まゆ先生も……１２歳になるのね」
　なんとなく自分の思い込みだと悟っているものの、あえて感慨深げに言う圭花。そしてやはり、まゆ先生のこめかみが、ぴきりと固まるのが分かった。

「ええーい、この大人の魅力が目に入らぬかー！　今年３６になるのよ！　オトナの女よ！」
「はいはーい、わかるわかる、その年代は大人ぶりたいのよねー」
「ちっがーう！！」
　叫びとともに、容赦ない豆が圭花を襲い始めた。それが呼び水となり、なんとなくうやむやに流されていた子供たちも、力いっぱい投げつけてくる。
「いた、ちょ、いたいいたいいたい――もう、しょうがないな……くぉらー！　人間どもーーっ！！」
　開き直ったらしい。
　反撃にでた、鬼女一人。「きゃー、逃げろー！」と楽しそうに叫ぶお子様たちをおいかけていく彼女のおかげで、祭りがまた一団とカオスになっていた。