鬼は外、福は内、寝子島の節分祭｜リアクション

鬼は外、福は内、寝子島の節分祭

「やべぇのだ、こんな催し物があったとわ……」

　イベントには万難を排して参加せよ！　そんなお祭り娘根性を発揮しバレンタインに向けて入念な準備をしていた後木真央にとって、節分祭は想定外のイベントだった。それも、楽しそうな。
「なんでこんな大きなイベントを見逃してしまっていたのだ～、真央ちゃんのばかぁなのだ～」
　せっかく仮装も可なお祭り騒ぎの日だというのに普通の恰好をせざるをえなくなってしまった真央は、うぬ～、とうめきながら頭を抱えつつ、参拝後に参道の屋台を物色して回っている。

「真央ちゃんにしては珍しいですねー」
　カメラとICレコーダーを持った椿美咲紀が、そんな真央の様子を微笑ましく眺めながら、コメントしていた。こちらはしっかりと猫娘の仮装済みである。足元は猫の毛を模したファーのブーツ、ネコミミカチューシャを頭につけて、スカートの後ろにはしっぽがゆらんゆらんとぶら下がっている。
「美咲紀ちゃんは猫娘なのだ？」
「そうです、かわいい妖怪といえば、やっぱり猫娘ですからね！」
　にゃんこさんかわいいですから。

「リア充撲滅委員会バレンタイン仕様デビルサンタさんしか持っていない真央ちゃんなのだ。ここでデビルサンタさんを披露すると空気読めないレベル∞な気がするのだ、ぐぬぬ～……」
　リア充も非リアも一撃（？）にすべく、準備していたらしい真央。滑ったギャグを一歩ごとに解説して歩く羽目になる不毛な有様がまざまざと想像されてしまい、家を出る直前まで迷っていたものの、断念した経緯があるらしい。
　「なんで真央ちゃん仮装してないんですか～？」となんとなく察しているだろうにちゃっかりインタビューをかけた美咲紀が引き出した敗戦の弁であった。

「まぁいいのだ今日は節分堪能だけで済ますのだ。豆ももらいたいから、豆まきメンバーの様子をちょっと見てくるのだー」
「あ、では私はもうちょっとあちらこちらインタビューして回りますので、またあとでです」
「じゃあ後でなのだ～」

　別れた後、境内へと向かった真央。彼女が見たのは、満月によって鼓舞された豆まき隊が、鬼を追いかけまわしている姿だった。
　そんな中に、見知った顔が一人。近づいてきた裃姿の小さな教師に、真央は思わず声をかけてしまう。
「……え？　まゆちゃんセンセが年女っ……え？　まゆちゃんセンセ、アラサーだと思ってたのにアラフォーだったのだっ！？」
　キキィ、とブレーキを踏むような音が聞こえた気がした。ギギギ、と首を回すまゆ先生の笑顔は、すこぉしだけ引きつっていたりする。

「あらぁ、誰かと思ったら」
　にこにこ笑いながら豆発射準備を整えるまゆ先生。
「参加してるからって年女っては限らないし、私、２４かもしれないのよ？　そりゃああふれるオトナの魅力がありますから？　そう見えないかもしれないけども？　それに豆まきも鬼も誰でも参加できるんだからっ！」
　小学生だと言われるのもアレなまゆ先生。それでもアラフォーという言葉にだいぶ引っかかっているらしくにこにこ笑顔を浮かべてフォローしてきたが、その言葉に真央は別の意味でショックを受けていた。
「え？　年女でなくても豆まきに参加できるのだ！？　最先端を追いかけねばならない新聞部の真央ちゃんが、何てことなのだっ！　バレンタインに注力しすぎて注意力散漫だったのだっ」

　崩れ落ち、バンバンと地面をたたく真央。
「真央ちゃん、ほら、来年もあるから、ね？」
「ううう、こうなったら来年は鬼役、再来年は豆まき役希望なのだ～……」
　翌年へ期待をつなぐこととし、それはそれとして今年だ、と思い至った真央が顔をあげてまゆ先生をみやる。
「まゆちゃんセンセー、こっちにも豆ぷりーずなのだ！　熟女パワーカムヒアなのだっ……おぶぶっ！？」
　真央の額に、見事な怒りの豆がぶち当てられたことは、説明するまでもないだろう。