鬼は外、福は内、寝子島の節分祭｜リアクション

鬼は外、福は内、寝子島の節分祭

「よぉーし、ものども、打ち方やめー！」
「ちょ、まだやりきってないわよ！？」
　まゆ先生をやさしく拘束しつつ、満月が場を収めるとむくりと竜司が起き上がってきた。鬼の仮面をとった彼は、にや、っと笑って子供たちに向き直る。

「俺の中の鬼はぶっとばされちまった。みんなのおかげだから、お礼にニャルキーをあげよう！　さぁもってけー！」
　年少組の子供たちが嬉しそうに竜司の手からニャルキーを受け取っているのを見て――もちろんまゆ先生もぬかりなく大量に奪い取っている――うんうんと肯いた満月が、店の扉を大きく開け放った。
「さぁまゆ先生！　そして子供たち！　いざ出陣さね！」

　竜司を店の前に縛って転がして――まゆ先生の仕業だが――境内に到着した一行。
「さぁ、ここからが本番さぁ　日頃のウサ晴らしと自分の中の『鬼』を退治する為に『精一杯心を込めて』豆を蒔くと良いんさね」
　晴れやかな笑顔で引率してきた一行に声をかけた満月は境内に向き直ると、すぅ、と息を吸い込み、マスを持つ手で扇のかなめ、棒状の部分を握りしめた。発動したろっこんで、身体能力が強化されていく。

「……野郎ぉ共ぉおおお、かぁかれぇえええ！！」
　ドスの聞いた声に背中をおされるように、子供たちが駆け出していった。

「はぁーっはっはっ、目つぶし！　転倒狙いの足もと投げ！　ボディーブロー！！　よい子は真似すんじゃぁないさね、手加減してやりなー♪　ほーれほれほれ、鬼役のみんな　しっかり逃げつつ、さっくりやられちまいな！」
　「おい誰だよ満月さんに豆まき役もやっていいって言ったやつ」とざわつく境内を完全に無視し、満月指揮する豆まき隊が、鬼達へ向かって駆け出していく。鬼はといえば、当たり前だが抗することなどできはしない。声が響いた瞬間、一目散に境内を逃げ出し始めている。

「いやいやいやさすがにそりゃやりすぎだから、姐さん」
　何とか拘束を解いて、まゆ先生の豆に再び当たりにきた竜司が、始まった惨状に小さく突っ込みをいれるが、走り出していった子供たちとまゆ先生の耳には届かない。

　図らずも満月の声が号砲替わりとなったようで。そのほかの豆まき役達も、皆一斉に駆け出していく。節分祭りの本番ともいえる時間が、開始されたのだった。