鬼は外、福は内、寝子島の節分祭｜リアクション

鬼は外、福は内、寝子島の節分祭

　さぁこれで最後だ――そう言い満月が小さな女の子の着付けを終えた瞬間、うさぎ屋の扉が、スパァンと開かれた。

「まゆ先生が豆まき役をなさると聞いて、冴木竜司参上！」
　逆光が差し込む扉の前に立つは、一人の少年。
「……先生も小学五年生枠での参加――いつまでも若々しい妖精のような美しさの先生ならではな人選ですね！　本当は年女枠での参加でちょっと傷心なその姿も愛らしいですよ！　そんな貴方が大好きです、結婚してください！」
　どやっとばかりに片手を広げ、さぁともに新たな世界へ！　とばかりにまゆの方へと向けてきた少年の名は、冴木竜司。白髪が若干混じったざんばらな髪の少年にとって、キラっと歯を輝かせ放った言葉は練りに練ったプロポーズ（おふざけ）であった。

　――なんと返答はあった。それも、大変に強い勢いで飛ばされてくる。……豆が。

「……って、痛い！？そんな強く投げないでくださいよ！　どいひー！？」
「大人の女を捕まえてその言いぐさ、あまつさえ乙女の着替えを除くフラチモノよ！　やっちゃいなさい！」
　まゆ先生の怒号とともに、すぐさま豆まきに出発できるよう用意されていた豆の大半が、まゆ先生と周囲の子供たちによって投げつけられていく。
「いたたたたっ！？　せめて鬼の面をつけさせて！？」
　先制攻撃を喰らった竜司。悲鳴を上げながらも、どこからか取り出した面を装着すると、気を取り直したように声色を作り物へと変え、両手を上げて脅しにかかる。

「ふっふっふ！さあ、悪い子はいねか～？　可愛い子はお兄さん鬼が攫っちゃうぞ～？」
　まったく怖さのない鬼の面――幼稚園で先生が、あるいは３歳児のいる家庭でパパがつけているようなそれをかぶり、妙に野太い声であおってくる様子は、滑稽さにあふれてて、恐ろしさは微塵もない。ただし台詞の一部が別な意味で危なかった。
「ちなみにまゆ先生は問答無用で結婚を申し込むぞー！」
　続けられた言葉に、満月が思わず爆笑する。

「よぉし、それじゃ、とりあえず前祓といこうかね」
　うがー、と怖がらせる演技をしていた竜司が入口で陣取っているのを見やりながら、満月はその場にいた全員を煽っていく。

「さぁみんな！　まずは手始めにあの鬼君を迎撃するさね！　ばらまけー！」
　満月の号令一下、７、８人いた子供たちプラスまゆ先生の手から、豆が大量に放たれた。

「ちょ、いっせいは、あ、ちょ！？」
　力いっぱい投げつけられる豆たち。
「えーい、鬼は外！　寝子島の外へ、いや地球の外まで出てっちゃえ！」
　佐藤瀬莉が勢いのよい掛け声とともに一升ますいっぱいの豆を投げつければ、
「鬼はー外ぉ、福はー内ぃー！」
　にこにこ笑いながら、瑠樹も同様にしている。
「嬉しいねぇ、楽しいねぇ」
　ほんわかとした笑顔を浮かべながら、時折ちらっと周囲を見ては、投げすぎない程度に加減して投げつけていた。

「竜司くん！　よくも！　子供あつかい！　してくれたわね！」
「フハハハハ！　まゆ先生の豆だと？　俺は一向に構わん！　むしろご褒美です！」
「あっはっは、やっぱあの子面白いねー！」
　カオスと化したうさぎ屋店内。しかし狂乱はすぐに鎮静化にむかう。
「やられたー！　ってちょ、いた、いたいいたいもうだめやられてますから！　追撃は！？どいひー！？」
　竜司が、子供たちの豆をほどほど喰らったところで苦しんで地面に倒れるふりをして見せたのだ。なお地面に倒れてもまだ豆をあて続けていたのはまゆ先生である。