鬼は外、福は内、寝子島の節分祭｜リアクション

鬼は外、福は内、寝子島の節分祭

「わわわわわ、えっ、ちょ、本気っ！？　や、やめてくださ痛っ！？」

　雨咲時雨もまた、鬼役の一人。
　神社から貸し出された格好は、ゆるりとした幼稚園児向けの鬼の面に、着流しの単衣、そして模造刀の恰好で。和風小説にでてくるような神秘的な鬼の恰好ながら、そのデフォルメされた面が不思議なアンバランサで映えていた。
　「たまには鬼役になってみな」と父に促され参加したのだが、祭りのガチ度合いが予想をはるかに超えていて、困惑のままに逃げまどっているところで――。

　少し見えづらいからと鬼のお面を斜めに被ったのは正解だったと、しみじみ思う。小さい女の子だけかと思ったのに、怖いお姉さんとか小さなお姉さんとか、なんだかハッスルしているお兄さんだとかまで混ざっていて、地味に当たると痛いから。
「ちゃんと逃げないと、これ、だめです」
　はふぅ、と息をついて休んでいると、今度はやや年の近そうな女の子――佐藤瀬莉が喜々として迫ってくるのが見えた。

　「鬼は外、福は内」と元気よく声を出しながら、鬼役の人たちめがけて思いっきりぶつける少女はしかし、よく見ると女子供には優しく、男には激しく投げつけている。わが身を顧みて――あ、これはだめだな、と思い至る時雨は、慌てて再び駆け出した。
「まちなさ～い♪」
　かわいい女の子特権を盛大にいかすと決めているらしき瀬莉の声は、はずんでいる。
　まだまだ、エネルギー切れには程遠いようで。
「あわわわ」
　時雨にできることは、逃げること。あの子も楽しんでいるみたいだし――痛いけど、そう思えば、ちゃんとお祭りに参加できている気がして、少し楽しかった。