鬼は外、福は内、寝子島の節分祭｜リアクション

鬼は外、福は内、寝子島の節分祭

　羽生碧南もまた、成り行きで節分祭の参加者となることになった一人だった。

「君身長高いね～いくつ？　お、180cm！　いぃやぁ、モデルさんかと思うその可愛さ！　すらっとした手足！　やっぱそういう光るモノもってる子はね！　お祭りでも主役を張らなきゃ、主役を。参拝客として見てるだけで埋もれてるなんてもったいない！　さ、こっちいこっか！」
　立て板に水の大変怪しげなナンパにうっかりついていってしまったのが運の尽き。
　ちょっと現代風の色がある、和装の鬼の恰好をさせられ、境内の広場にたっている。和服というよりも、戦国時代風ファンタジーの衣裳といったほうが適切なそれは、黄色をベースに縞模様で若干虎をイメージしているらしく――そして、露出度はやや、いやはっきり言ってかなり高めだった。
「あのお坊さん、なんでこんな衣装持ってたのかな……」
　キラッと光る歯とサムズアップとともに碧南を境内へ送り出し消えてしまった、二十歳すぎくらいのイケメン坊主の顔を思い浮かべながら、釈然としない顔をしていたところで、豆まき大会が始まり――今に至るというわけだ。

「そもそも背が高いからって引っ張られる意味がわかんないよ！」
　ほんわかと投げつけてくる子どもの豆は受けるものの、受けると確実にあざになりそうな勢いで投げつけてくる人たちの豆からは必死に逃げ回っていた碧南。そもそも高身長はコンプレックスでしかないのだ。それなのに、何で参加しているの私！　と自分で自分にツッコミを入れてしまう有様である。
「がんばれ～、碧南似合ってるぅ！」
　楽し気な友人の声が、ギャラリーの方から聞こえてくる。巻き添えにしてあげちゃおうかな。ちょっとだけそんな考えが頭をよぎるも、すぐにふるふると頭を振って、逃避行を再開した。

　豆まき役は実に多様で、何かゲームのコスプレのような女の子もいれば、巫女服をまとった、なんか人間技とは思えない動きをしている人までいる。あ、まゆ先生もいた。先生まだ２４なのかな？
　ふと見やれば、全身青スーツの変な棍棒を持った子もいるようで――ひょっとしてまだマシな方だったのかな、と思うも、改めて自分の恰好を見下ろすと、赤面してしまうレベルで。
　あー、でもこんな恰好でもいいって言ってくれる人、いるのかなぁ。「碧南が着てればなんでも似合うけど……でも、そういう恰好は俺だけに見せてくれなきゃ、すねちゃうぞ」とか言ってくる年下の子とか、うん、いいよね！
　必死に工場街を逃げていると、こう、追手をバタバタと倒して、「そんな恰好でこのあたりをうろついてりゃそりゃ追われるってもんだ、何考えてんだこのバカが！」「なにをー！？」なんて会話を繰り広げたりとか――それでもってでもやっぱその人って私をしっかり守るときは守ってくれるわけで、えへへ……。

「碧南ー、もどってこーい！」
　恥ずかしさのあまりだろうか。
　羽生碧南、１６歳。最近攻略中である乙女ゲームの推しメンとの出会いのシーンに、自らの意識をトリップさせてしまっていた。