R&R Agency：File03：１９９９年からの使者｜リアクション

R&R Agency：File03：１９９９年からの使者

● 迷宮へ

　翌早朝。
　まだ暗いうちに出立したアフマドと過去から来た者たちは、幾台かのジープに分乗し、砂漠を横断していた。
　目印もない砂だらけの地を、昇り始めた朝日の方向を頼りに進む。
　進むこと数十キロ。
　たどり着いたのは、半分砂に埋もれた四角い石造りの入り口だった。
「ここが我々が見つけた、ヘロドトスの迷宮の入り口だ」
　かの歴史の父ヘロドトスが、著書『歴史』にピラミッドよりも素晴らしいと書き残した迷宮。現代では滅んだと思われている古代エジプトの遺物が、じつは地中深く眠っていたとは。

　アフマドに誘われ、下方へ傾く狭い通路をしばらく進むと、ホールのように広い空間に出た。
　この先へ行くには三つある扉のいずれかを選択して進まねばならず、扉の上にはそれぞれワニ、ハヤブサ、ネコのレリーフが掛かっている。アフマドはそれらを順にライトで照らした。
「伝承によると、迷宮は上下二層になっていて、屋根のある中庭が十二、部屋は全部で三千ともいわれている。だが、私たちが踏破しているのはこのホールと、三つに分かれた道の途中までなんだ。なにぶん古いので、途中、崩落個所も少なくない」
「私たちはその先へ進んで、最奥部にあるという『黄金のピラミッドストーン』を持ち帰ればいいのね」
　とエヴァ・ブランシェ。
「その通りだ」とアフマドは頷く。「だがまずは上層を探索して、下層への道を開いてほしい。これも伝承によるとだが、ネコ、ハヤブサ、ワニの三つの道の先にはそれぞれ仕掛けがあり、すべてを作動させることで道が開くはずなのだ」

　ここで、畑中華菜子が用意してきたお湯でカップラーメンを作り、一口ずつみんなに振る舞った。華菜子のろっこんは、華菜子が作ったラーメンを食べると食べた人のろっこん能力が一時的に上昇する、という支援系の能力なのである。
「みんな、絶対大丈夫アル！　＜私の作ったラーメンに不可能は無いアル！＞」
　その後、誰がどの道へ進むかの作戦会議が開かれ、結果、ネコの道へは坂内梨香を加えた９名、ハヤブサの道へ８名、ワニの道へ７名が挑むことになった。
　オマーとジャックが外での見張りをすることになり、鬼崎あやめは、アフマド、タラ、ユリウスとともにホールに残って連絡係を買って出た。
「……いや、だって私は普通の定食屋の娘ですよ？　迷宮の冒険なんてとてもとても……その代わり、調べ物はしておきますので」
　あやめは意味深に円と目配せしあったのち、笑みを浮かべた。
「皆さん決して無理はしないでくださいね？」

「ちょっと待って」
　ロベルト・エメリヤノフが、ろっこん＜Прекрасный мальчик＞で、華菜子と碧川雪月を美少年の姿に変身させた。彼女たちがネコの道へ行くというので、できるだけ身体が小さいほうが有利だろうと考えたのだ。

　みなの準備が整ったのを見て、エヴァが『迅速果敢』と書かれた扇子を振り上げる。
「それじゃ、『地球の未来』というお宝を探しに行きましょうか」