【星幽塔】第一階層　シャウラの泉へ｜リアクション

【星幽塔】第一階層　シャウラの泉へ

【サジタリオ・ストレイキャッツ】

　その頃。サジタリオ城下町。町の一角にひっそりとたたずむ小さなカフェ――『迷い猫』。
「うん。なかなかいい感じだね」
　そのオーナー兼マスターの旅鴉月詠は、先程自分でブレンドしてみたばかりのコーヒーを一口含み、まんざらでもなさそうにそう呟いて微笑した。
　月詠は、星幽塔にやってきてすぐに、冒険者達の拠点と情報交換の場となるカフェ兼宿屋のような場所を作ろうと考えて行動を開始した。
（もっとも考えることは皆同じだったようで、競合する宿はやめにして、私はカフェに専念にすることにしたけどね。おかげで、いい豆を揃える準備に集中できた）
　月詠は今まさにそうして苦心して集めた豆をブレンドしてつくったコーヒーに小さく舌鼓を打ちながら、ひとまずの出来栄えに満足を得る。
　そのとき、カランコロンと店のチャイムが鳴って、一人の眠たげな顔の少年が店内に入ってきた。
「いらっしゃい。おや、誰かと思えば、日暮じゃないか」
　月詠は店の入り口に目をやって、そこにいた人物が自分と同じ寝子島からやってきた高校生――日暮ねむるであったことに気づいて、少し驚いたような声を漏らす。
「あれ？　君は確か旅鴉さん、だよね？　偶然、カフェを見かけたから入ってみたんだけど。まさか君がやっているなんてね」
「私にカフェのマスターは似合わないかい？　なんなら、日暮が女装して給仕のバイトをしてくれもいいよ」
「いやいや、それは遠慮しておくよ。旅鴉さんのマスターっていうのも、とてもしっくりきているし」
　自分の女給姿を想像したのか、ねむるは苦笑しながら頭を掻いて言った。
「それにしても、歩いて通える距離にカフェが出来て嬉しいよ。それじゃあさっそくだけど、アイスコーヒーを一杯頂こうかな」
「アイスコーヒーだね。少し待ってね」
　月詠は小さく微笑んで頷くと、アイス用に別途詰めておいた濃い目の豆が入った瓶を開ける。ねむるのコーヒー好きは友人・知人の間では有名だ。彼の舌を納得させるものができていれば、この店がそれなりに賑わう日もそう遠くないだろう。
　コーヒーを熱めにドリップし、奥に設えた小さな氷室に蓄えた氷と冷やしたグラスで一気に冷やす。
　手間はかかるが、だからこそ異世界で飲む冷たいコーヒーは格別の味のはずだ。
「はい、どうぞ」
　グラスになみなみと注がれたアイスコーヒーをテーブルの上に置いた。
「ありがとう。……ふう、生き返る。労働の後の一杯はたまらないね。実を言うと僕らも近場で宿屋をやっててさ、旅鴉さんが良ければここのコーヒーを仕入れて提供してもいいかな？」
「ＧＭＴＫかい？　それなら私も望むところだよ」
「……ＧＭＴＫ？」
「もちろん、ぎょーむてーけー（業務提携）の略だよ」
「……ああ、うん。それなら良かった。あ、それと、早速そこのボードにうちの宿――猫島亭の宣伝を書いてもいいかな？　もちろん、うちのボードにも旅鴉さんのお店のことは宣伝しておくからさ」
　ねむるは了承を得られたところで、ちょうどねこよろずで購入していた空き瓶にコーヒーを詰めてもらえるように頼みつつ、店内のボードに如才なく目をやって言った。
「ＪＨＫＹと言うわけだね。それもまさに私の望んでいたところだよ」
「……ＪＨＫＹ、じょーほーきょーゆーの略、かな？」
「そのとおり。さて、それじゃあコーヒーは瓶に詰めておいたよ。それから、同じく冒険者の拠点を成すものなれば――これは私からの気持ちだ。ブレンドしたばかりのコーヒーだよ。是非持っていってくれ」
「ありがとう。今夜、宿のみんなやお客さんと一緒に頂くよ」

　こうして月詠とねむるはＧＭＴＫの話を取りまとめて、それぞれの仕事へと戻っていくのだった。