【星幽塔】第一階層　シャウラの泉へ｜リアクション

【星幽塔】第一階層　シャウラの泉へ

【ビキニ＋おばあさん＝ダークファンタジー】

　その頃、水上桜もまた美しい黄色い鳥の姿と声に魅せられて、気がつけば森の深いところまで足を踏み入れていた。
「鳥を追いかけて、こんな深い森の奥まで来ちゃったけれど……。いったいどうやって帰れば……って、ええっ！？」
　そこで、桜は見た。
　見てしまった。
　ダイナマイトなビキニ姿で森を意気揚々と歩くやんちゃなおばあさんの姿を。
（……あの格好で泉まで行くの？）
　桜は愕然と目を見開いた。何か見てはいけないものを見てしまった気さえした。
「えっひゃひゃ！　近い！　シャウラの泉は近い！　特に根拠はないけど、そんな気はするよぉ！」
（しかも、根拠ないの！？）
　桜はもうわけがわからなかった。こんな深い森の奥に一人でやってくる理由も。そもそもどうしてビキニなのかということかも。
（……これがダークファンタジーってやつなのかしら？）
　だいぶ違う気もするが、桜は割と真剣にそう思った。
　と、まさにそのときである。

「……ちょ、ちょっと待ってよ、そこのお婆ちゃん！」

　ちょうどおばあさんがやってきたのと同じ方角から木々の間をかきわけるようにして、どこかで見た記憶のある女性が現れた。
「あの人は確かサジタリオ城の竜退治のときの……」
　桜はその女性――桃川圭花に見覚えがあった。つい先日のサジタリオ城攻略戦で、正面突破組に参加していた人物のはずだ。
　その圭花がおばあさんを後ろから呼んでいる。
　だが、おばあさんは反応しない。
（あのおばあさん耳が遠いのかしら……）
　桜はそう思った。
　が、その直後。
「……そこのきれいなお姉さん、ちょっと待って！」
「ん？　わしに何かようかの？」
　圭花が『きれいなお姉さん』と言い直した瞬間に光の速さで振り返ったおばあさんに桜はズッコケかけた。

（……ダークファンタジーの登場人物にしては随分とフランクなおばあさんね）

　苦笑しつつ、桜もまたおばあさんの元に駆け寄る。

「ねぇ、そこのお姉さん。そんな格好で泉まで行くの？　私も一緒に行ってあげようか？」

　桜は、直感的に、このおば……お姉さんについていけば、噂の泉まで辿りつける気がしたのだ。
「……あら、あなたはサジタリオ城のときの」
　圭花が桜が城の奪還作戦に参加していたメンバーであることに気づいて、驚いたような顔を見せる。
「ええ。奇襲班に参加していました。私、水上桜といいます」
「ああ、やっぱりそうね。私は圭花。桃川圭花よ」
　二人が改めて自己紹介をする姿を見て、ダイナマイトおばあさんは目をしぱしぱと瞬かせた。
「おや。お嬢ちゃん達はあのサジタリオ城奪還作戦に参加していたのかい？　そりゃボディーガードとしてはこのうえないくらい上等だわねぇ」
　か細い肩を揺らしてカッカッカッとおばあさんは笑うと、二人の顔を順繰りに見てニヤリと笑った。

「よっし！　根拠はないが、泉ももう近い。が、それはそれだけ森の深いところで危険も多いということ。二人とも今からわしのボディーガードじゃ！　報酬はシャウラの泉の水浴び放題だよ！」
　相変わらず根拠もないのに、そう豪語するおばあさんに、桜と圭花は呆然とした表情を浮かべた後、互いの顔を見あわせて小さく苦笑した。