【星幽塔】第一階層　シャウラの泉へ｜リアクション

【星幽塔】第一階層　シャウラの泉へ

【水瓶の魔術師】

　その頃、来島アカリは城下町の大通りで宣伝活動に励んでいた。
「よーし、ビラは配り終えたぞー。さて、お次は、と……」
　一仕事を終えて、うーんと伸びをしたアカリは通りを行く人々の多さに「むー」と唸る。
（大通りだし、当たり前なんだけど、やっぱり人多いよなぁー……）
　アカリはこれから自分のやろうとしていることと、このあたりの人通りの多さを鑑みて、少し気後れするような表情を見せた。

（……いやいや、ここで逃げちゃ駄目だろ、俺！）

　しかし、アカリはぎゅっと拳を握って自身を鼓舞すると、大きく息を吸って街行く人々に向かって大声で呼びかけた。

「レディース・アンド・ジェントルメン！」

　演劇専攻仕込みのよく通る張りのある声で、アカリは通りを行き交う人々の視線を一身に集める。

「なんだ、あの子は？　魔法使いの弟子か？」
「なかなか可愛い女の子だな」

　人々の反応はまちまちだったが、おおむね興味を集めることには成功したようだ。
（むー。俺は女じゃなくて男だっての……）
　少し不服そうに胸中で呟きつつ、アカリは集まる視線を一つ一つ見返しながら、堂々たる振る舞いで言葉を続ける。
　普段はやや人見知りのするアカリだが、ひとたびスイッチが入れば、彼は別人のように堂々たる笑顔を見せる。

「これからお目にかけますは水の魔法！　あの黒竜討伐にも一役買った奇跡の技を――とくとご覧あれ！」

　言うが早いか、アカリは星の力（魔水）が宿った杖をくるりと振りまわして、杖から水を噴射させる。

「おおっ！」
「魔法だ！」

　沸き上がったどよめきは、やがて大きな歓声に変わっていく。
　アカリが一通りのデモンストレーションを終えたときには広場には溢れんばかりの拍手が巻き起こっていた。

「御観覧ありがとうございました！　少しでも心動かされた方はこの帽子にお気持ちを！　そして私とその仲間による宿屋『猫島亭』をどうぞご贔屓に！」

　アカリがいかにも魔法使いっぽい意匠の帽子を取って、深々と一礼をすると一人また一人と観客がお金を入れてくれた。

（みんな喜んでくれたみたいでよかった……。やっぱり演劇とか手品っていいよな……！）

　たくさんの人の笑顔を目の当たりにしたアカリは演劇への想いを新たにした。

「よーし！　あとは必要なものを買い揃えて、みんなのところに帰るぞー！」

　かくして、アカリは意気揚々と通りを後にするのだった。