【星幽塔】第一階層　シャウラの泉へ｜リアクション

【星幽塔】第一階層　シャウラの泉へ

【猫島亭とねこよろず】

　星幽塔第一階層。
　サジタリオ城の城下町。猫島亭。
　そこは、塔外からやってきた冒険者である卯木衛、来島アカリ、日暮ねむる等が営む冒険者達の憩の宿である。
　温かいご飯と、熱々のお風呂、さらにはスタッフの特殊能力による各種追加サービスなどをウリにしたアットホームな宿で、開業以来、少しずつ客足を増やし続けている。
　その日も、早朝からアカリは星の力（魔水）で風呂釜を洗い、ねむるは屋外で釜につかう薪を斧で割ったりと、猫島亭のスタッフは忙しく働いていた。
「……あ。そういえば、卯木君。由貴奈さん達の焼くパンを仕入れたいって言ってたよね？」
　ねむるが薪を割る手を止めて、屋内に向かって声をかけると、いつものヘアピンをつけた衛の頭がひょっこり顔を出す。
「ん？　ああ、そうそう。前に城下町でばったり会ったときに営業かけられてさー」
「だったら、今割った薪を、営業のついでにいくつか由貴奈さんのところにも持っていってあげるといいよ。パンを焼くのにも火種がいるし、喜んでくれると思うよ」
「お、それいいなー！　よし、じゃ、いっちょ薪を持って営業に出かけてみるぜ！」
「あー、卯木。だったら、俺がつくったビラも壬生先輩の店に持ってってくれよ。先輩が焼いたパンが食事に出る宿って知ったら、そっちのお客さんが何人か来てくれるかもしれねーし」
「おお、アカリくんもナイスアイデアだ！　よし、なんかいよいよ本格的に始まってきた感じがするぜ！　みんな、頑張ろうぜ！」
「うん」「おー」
　衛の声掛けに、ねむるとアカリも同調する。
　そうして、その日の彼らの活動がスタートとした。

　　　＊　＊　＊

　その頃。
　同じく星幽塔第一階層。サジタリオ城下町。ねこよろず。
「うん。だいたいの情報は得られた。それじゃあ行ってくるよ、遠野」
　店の奥の机で分厚い書物に目を通していた八神修はゆっくりと立ち上がると、同じ部屋で編み物をしていた遠野まほろにそう声を投げかけた。
「……あ、そういえば椿さんと泉に行くって言っていたね。うん、いってらっしゃい」
　まほろは編み物をしていた手を一瞬止めて、修にのんびりとした微笑みを返す。
「……八神君なら大丈夫だとは思うけど、一応気をつけてね。シャウラの泉には狂暴な虎が出るらしいから」
「ありがとう。大丈夫だ。細心の注意を払い、そのうえでシャウラ・タイガーには充分に役に立ってもらうつもりだ」
　修はリュックのマタタビやシャベル、袋、生肉などといった荷物を確認しながら、自信に満ちた笑みを浮かべる。
「……うん、それなら安心。……ん？」
　まほろは、一瞬何かがおかしい気もしたが、特に気には留めなかった。
「シューくん！　こっちも準備完了ですよ！　あ、遠野さん、泉で使うタオル貰っていきますね～！」
　ふと顔を上げると、店の棚からタオルをいくつか手荷物に詰めながら椿美咲紀が元気良く手を振っていた。
「森には危険が一杯らしいですけど、『カワイイ』のためならためなら多少の危険もやむをえないのです！　それが乙女というものなのです！」
　力一杯にそう力説する美咲紀に、まほろと修は微苦笑を浮かべる。
「じゃあ出かけるか、美咲紀」
「はいです☆」
「では、遠野。留守を頼む」
「うん。お土産楽しみにしてるね」

　まほろはひらひらと手を振って、店の外まで二人の仲間を見送ると、またせっせと編み物に戻った。
（泉も楽しそうだけど、私は新商品の開発もしたいんだよね。私のマスコットを使ったお守りやチャーム。みんなが喜んでくれる商品になるといいなぁ……）
　頭の中に浮かんでいる商品のイメージと、それを手に取るお客さんの姿を想像してほっこりとした笑顔を浮かべる。
　そんなまほろの姿を、店でバイトしている猫系獣人の二人はどこか不思議そうな表情で見つめていた。

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