【星幽塔】第一階層　シャウラの泉へ｜リアクション

【星幽塔】第一階層　シャウラの泉へ

【城下町百景】

　サジタリオ城下町。星の酒場――Ｂａｒアストラル。
　その日も、トワ・E・ライトフェロゥは店のマスターの後にくっついて、天真爛漫に仕事のお手伝いをしていた。
「Hi! マスター、今日のトワは何をお手伝いすればいいデスカ？」
「いえ、今日は特にお客様の数も多くないので、そこでのんびりでして頂いて大丈夫ですよ」
　ダンディなマスターが透明なグラスを丁寧に拭きながら、穏やかに微笑む。
「マスター、遠慮する必要ないデス！　トワ、とっても役に立つヨ！　店にお客が来ていないなら、トワがお家まで届けてあげるデス！」
「ああ、そうでした。今、ちょうど、お願いしたい仕事を思いつきました」
「Oh!　さすが、マスター！　で、トワは何をするイイデス？」
「じつは猫島亭のみなさんに少しお願いしたいことがありまして。これを猫島亭まで届けて貰えませんか」
　そう言って、マスターはたくさんの紙の束をトワに手渡す。
「……？　下水道に詰まったスライム退治？　ネコ探し？　下着ドロボー捕獲？　Oh! これは、いわゆるquest scrollデスネ!」
　トワが受け取った紙には城下町に住む様々な者達からの依頼と報酬の内容が書かれていた。
「最近は町が活気溢れると同時に厄介事も増えてしまったようで、ウチだけでは依頼を捌ききれなくなりましてね。腕利きの冒険者さん達が集う猫島亭にこれを置いてもらえれば、より多くの依頼の達成に繋がるかと」
「ワカリマシタ！　トワ、ひとっ走り行ってくるデス！」
「お願いしますね。あ、それから、これは私が猫島亭の皆様にお願いしたい個人的な依頼です。報酬は弾みますので、くれぐれもよろしくと猫島亭の皆様にはお伝えください」
「OK!　じゃあ、行ってきますデス！」
　トワは満面の笑みを浮かべるとリュック一杯に詰まったquest scrollを背負って、店を飛びだした。
　マスターはそんなトワを穏やかな笑顔で見送ると、再び丁寧にグラスを拭き始めた。

　　　＊　＊　＊

　サジタリオ城下町。大通り。
　日暮ねむるは、薪割りを終えて、宿の備品の買い出しに通りまで出かけていた。
「いつのまにか随分と賑やかになったもんだねぇ。お、ここだ」
　ねむるは眠たげな目をきょろきょろとさせながら、通りにかかった『ねこよろず』の看板に目を止めて立ち止まった。
「……あ、日暮君。いらっしゃいませー」
　ねむるが店の入り口をくぐるとカウンターから、遠野まほろの声が聞こえてきた。
「やあ、遠野さん。ちょっと散歩がてら寄らせてもらったんだけど、いいお店だね」
「ふふ、ありがとう。何か探しものがあれば遠慮なく言ってね」
　白魔導士っぽいローブ姿のまほろが微笑むと、ねむるも頷いて、店内の物色に戻る。
　店の中は本当に色々な物が置かれていた。
　だが、ねむるは入店してすぐに目ぼしい商品を決めていた。
「うん。それじゃあ宿のインテリアとして、コレをいくつか貰おうかな。猫島亭にぴったりのアイテムだと思うんだ」
　ねむるの言うコレとは、まほろお手製の猫のぬいぐるみ達だった。
　自分のぬいぐるみが同じ仲間達のつくった宿のインテリアになる。
　それはまほろにとっても願ったり叶ったりの話だった。
「はぁい。お買い上げありがとうございます」
　まほろは少し嬉しそうに言って、にっこり笑う。
「あ、それから宿で使うその他の備品もいくつか欲しいんだけど」
「うん、わかった。アニさん、オトートさん。日暮君にそっちの商品を包んであげてくれる？」
　まほろの言葉に、バイトの猫系獣人の双子がせっせと大きな腕を器用につかって商品の包装を始める。
　それを見て、

（ああ、ここはやっぱり異世界なんだなぁ……）

　と、ねむるは異世界にやってきた感慨をより深いものにしたのだった。

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