猫、逃げる｜リアクション

猫、逃げる

　具体的な情報がないからな、歩きまわって探すしかないよな。
　そうひとりごちてあてどなくふらふらと歩き回り続けた御剣刀。
　モグモグとパンケーキを食べながら参道商店街を歩いていた彼の頭に、唐突な衝撃が走る。

「いってぇ！？」
　勢いよく後頭部を踏み台にされ、飛び立ったものを見ると――黒猫。
　あ、こいつだ。
　なんか踏んだな、という顔で振り返った猫を見て、直感的に御剣はそう思う。

「こら、まてっ！」
　知らん、とばかりに駆け出した猫に、はっとして追いかけ始める御剣。
　スイッチが入ったように、急速な加速。
　ダッシュで勝てると思うなよ……！
　とはいえ、昼間の街中であるゆえ、そこまで好き放題に走れるはずもなく。
　内心でそう言い放ち猛ダッシュをかけるが――ダッシュでは勝っても、それだけでは市街地でのチェイスで猫に勝つには困難が勝ったようだった。

「――さすがに……む……り、か……っ！」
　くわえていたパンケーキを手に持ち直し、立ち止まった御剣。
　猫は人では入れない小さな隙間を駆使し、目で追えない建物の影へと消え去ってしまっていた。
「うっかり出会えたのにな」
　ふー、と長く息をつくと、「ま、いいか」と肯いた。

　願い事は、自分で叶えるものだもんな。
　言い訳半分、本音半分。
　興味本位で探していたものに、うっかりとは言え見かけることができて、追いかけっこできた。それだけでいいという事にしておこう。うん。

「うまいパンケーキも見つけたしなー」

　とりあえず、あの猫が寺に戻ったら、お供えでもしてやろうかね。
　そんなことを思いながら、御剣は帰路へ着いたのだった。