アモーレ４アモーレ！｜リアクション

アモーレ４アモーレ！

　白い調度の控室。窓の外では楽しげな天使達が星屑を拾い集めては料理に変えている。
　鳥の囀りに、ざわめく四季折々の木々が御巫時子の胸を凪いだ。
　豪奢なドレスを抱え上げ、窓の外から視線を逸らして鏡の前でターンを１つ。
　――似合うでしょうか。
　声にせずに呟くその言葉に、応える様にコン、コンとノックが聴こえた。
「はい」
　ゆっくりと振り仰ぐ時子の視界には五十嵐尚輝の姿。白のタキシード姿に、何処か照れ隠しをする様に整えた髪を掻く仕草。
「尚輝せんせ――……尚輝さん」
　違和感なく似合っているその衣服。花嫁である自分を迎えにきてくれた彼。
　ゆっくりと歩み寄ってくる彼が「御巫さん」と呼ぶ声に「可笑しいですね」と淡く微笑を返して。
「尚輝さんと同じ名字になるのに……。タキシード姿も素敵ですね」
「御巫さ――……時子さんこそ。似合っていますよ」
　あまり纏う事の少ない洋服に、和装の方が良かったかと少し悩ましく思っていた時子は嬉しいと目を細めた。

　

　腰に大きなリボン。シンプルなドレスであれど自分にとってはこれ程にない幸福で。
　天使や悪魔が待つアモーレの店先を眺めては、もう少しであの喧騒の中で幸せを誓い合うのだと息を吐く。
　店を飾ったステンドグラス。厳かな雰囲気と奇妙な明るさが醸し出す不思議な『アモーレ』。
　言葉にできない程の喜びを噛み締めて、ゆっくりと歩む時子へと拍手が聞こえる。
　天使の奏でるパイプオルガンを聞きながら彼女は自分を待つ尚輝へとゆっくりと階段を下りてゆく。
　垂れる藤がカーテンのように思え、その先に立つ彼が差し伸べる掌へとゆっくりと手を重ねた。

「誓います」
　病める時も、健やかなる時も――……誓いの言葉と共に笑みを向ければ、大きく頷く愛しい人。
　時子の鼓動がとくり、とくりと大きな音を立ててゆく。
　目尻に滲む泪を拭うことなく頭を下げた時子へと尚輝先生は「大丈夫」と呟いた。
　誓いのリングは左手の薬指へと収まって。
　それだけでも、嬉しくて、ヴェールの向こうに見えた笑みに瞳が潤み続ける。
「尚輝さん」
　時子さんと返されたその声音の優しさにゆっくりと瞼を下ろした時子は降る優しさにぎゅ、と瞼を閉じ続ける。
　誓いの口付けは優しく、甘く。何よりも望んでいたもので。
　ゆっくりと目を開けば、皆さんの許へと誘う彼が笑っている。
（しあわせ、しあわせです――……）
　祝福の声に落ちる星屑が沢山の色を帯びてころりころりと転がって行く。
　恋心が、『ラブ』が形作られて色鮮やかに転がる其れが何よりも嬉しくて。
（ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとう、ありがとう）
　何度も重ねた礼は祝福に返しきれないと嬉し恥ずかしの笑みを堪えた時子は振り仰ぐ。
　ヴェールを咥えた鳥がちちちと声を漏らして祝福を告げている。

『尚輝くん、時子さん、おめでとう！』

　鳥の囀りが言葉としてしっかりと聴こえるから。ありがとうございます、と小声で返したそれに鳥達は嬉しげに朗々と歌った。

　――きっと、目が覚めた時に夢なのだと気付いてしまうけれど。
　今は、幸せだから。