アモーレ４アモーレ！｜リアクション

アモーレ４アモーレ！

　左右非対称の角を頭に持つ悪魔、津島直治は幸福そうな雰囲気に釣られ、ふらりと「アモーレ」へと訪れた。
　奇妙な椅子の中で、セレクトしたのはクリスマスカラーでプレゼントの装飾が施された椅子。
「なるほど、幸せそうな雰囲気の原因はウェディングでしたか」
　悪魔である直治から見ても、悪魔と天使のどちらもが楽しげに笑い合うこの空間は不思議なものだ。それと同時に、素敵だと感じるのは笑顔の素晴らしさからだろうか――
（……なんて、悪魔の姿をしている私がこんなことを思うのはおかしいでしょうか）

　

　ラブの星屑で出来た料理とは何だろうかと、「ラブの星屑」としか書かれぬメニュー表を眺める直治は分からないと眉根を顰めた。
　ウェイターが初心者用と書いた普通のメニューを運んできた事で、何を注文すればいいのか分からないという事態は回避された――だが、オムライスやパフェなど、通常の商品の名前が書いてあるが、「※星屑次第」と注釈が書かれている。
「なにをいただいたらいいものか……」
　分からないと只、只、首を捻るしかない。
　そんな彼の向こう側で、厨房で笑みを零し「あんまり美味しくて一緒に来た人よりも料理に夢中にさせてしまうかもしれないからね！」と冗句めかしているアキヒロの姿が見える。
　流石は美食の悪魔だ。
　その料理のセンスもさることながら、小悪魔的な発言にも磨きがかかっている。
「……あ、アキヒロさん」
　えっと、と。どもりながらもいそいそと近寄って行く直治に振り仰いだアキヒロは輝かんばかりの笑顔を浮かべた。
「おや、やぁ、津島君！　今日はどうしたのかな、遊びに来てくれたのかい？」
「店の雰囲気が良かったから寄ってみた。アキヒロさんって、ここの料理人なんだね」
　周囲をきょろりと見回す直治にアキヒロ――普段の彰尋ではない、この天界と魔界の間『アモーレ』にだけ居る悪魔『アキヒロ』だ――は「嬉しいなぁ」と感情豊かに微笑みを浮かべる。
「何か食べていくかな？」
「え……えーっと、俺、何を食べようか迷っちゃって。オススメがあるならそれが欲しいな」
　星屑の味もわからない。ラブの味も想像がつかない。
　ありきたりなメニューよりもシェフの腕を信じようと考えるのは料理人としても嬉しい事なのだろう。
　アキヒロは「オススメだね。今日はきっといつもよりとびきり美味しい料理になるんじゃないかな？」と首を傾ぐ。
　今日は結婚式も多く、沢山の「ラブ」がこのアモーレには満ちているのだから！

　厨房で沢山の人の愛の籠った幸せな料理を作り上げるアキヒロが差し出したのは、デミグラスのかかったオムライス。
　ひとくち食べればその心に幸せが満ちていく。
　あまり経験した事のない感覚に直治は瞬き、「これがラブで出来た料理の味なんですね」と小さく呟く。
　その味わいは美味しいという以外に抽象的な表現が出来ない。幸せな味、という言葉が一番に会っている様にも思える。
　おいしい、と思わずつぶやく直治に天使達がにっこりと笑みを零した。
「いただいた料理とても美味しかったですよ。
　材料がいいというのもあるんでしょうけど、シェフの腕もいいんでしょうね」
　ついつい、素の言動をしてしまったと慌てる直治に小さく笑みを零したアキヒロは勿論、素材がいいからねと頷く。
「美味しかった？　それは嬉しい。
　……でも、やっぱり美食という罪に堕ちないように気をつけて」

　――なんて、冗談ではないけれど。